blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

カテゴリ: 会社法

New Companies Bill to bestow more discretionary powers on government

今日は弁護士の仕事に関するマニアックな話です。

法律というのは、それだけを一生懸命読んでも「実際に適用されるルール」がわかるようにできていることはまれです。というのは、日本で言えば、法律の条文で定められた要件について、「政令で定めるものを含む」 とか「内閣府令で定めるものを除く」とか、別の規定(国会で承認されたものではなく、行政庁が定めた規定)によって、さらに細かく規定されているので、実際のところは関連する政省令を全部「発見し」(これがまず結構大変な作業です)、その上で、関連する政省令の条文とあわせて法律を読む作業が必要になります。
そして、このような政省令への委任が多くなればなるほど、「実際に適用されるルール」に対して、法律を作った立法府のコントロールが弱くなり、法律を適用する行政庁のコントロールが 大きくなります。

現在、インドの上院にかかっている会社法の抜本的な改正案(先日の下院での決議についてはこちら。銀行法、会社法改正案、下院にて可決)では、このような政省令への委任を定める規定が全体の74%あるとか。(現在の会社法では16%。ただ細かい話ですが、何が分母で何が分子の割合なのかというのがわからないとなんともいえない気もしますが。)たとえば、会社は、5年ごとに会計士を変更してキャッシュフロー計算書を開示しなければならない、というルールが法律にある場合、どの会社がこの義務を負うのかが(公開会社だけか、非公開会社も含むのか、など)、政省令に落ちているそうです。

このような政省令への委任は、法律で定めてしまうと正式な国会手続きを経ないと変更できない事項について、社会の変化に沿って迅速に変更できるというメリットもあるのですが、上記の通り、これ自体、国民により信任された国会議員ではなく、公務員が作ったルールなのに、実質的に法律と同じくらい重要な意味を持ってしまうことになっていいの??という疑問があります。法律実務に関わる者としても、法律の改正だけを追っかけていても実際に適用されるルールがわからず、政省令が出た時点で改めて勉強しなおし、、となってしまうことになります。


Finally, RBI gets power to issue new bank licences
Lok Sabha passes Companies Bill
Lok Sabha passes companies, banking Bills
Corporates set to open bank accounts

昨夜かなり遅くまで国会審議が続いたようですが、 銀行法と会社法という重要法案が二つ下院で可決されましたので、今日はそのニュースを。今後は、上院での審議に移ることになると思われます。

[銀行法] ※過去記事 銀行法改正案、野党との激しい攻防続く
  • RBI(インドの中央銀行)の権限強化:銀行を持つ事業集団の帳簿を検査できる、役員の氏名ができる、一定割合の銀行株式のまとまった取引に拒否権を行使できる(過去、実際にこのような問題が起き、RBIがどこまでの権限を行使できるのか議論になったため) →以上の改正が前提条件となって、将来的には、RBIが新しい種類の銀行免許を発行し、NBFC(銀行ではない金融機関)のL&Tや財閥系のTataなど、銀行免許に関心を持つ民間企業の参入を認めるようにする(顧客には選択肢が増え、より広いエリアがカバーされるようになる、はず)
  • 銀行に対する投資家の持分割合の増加:民間の銀行は現在の10%から26%に、国有銀行は1%から10%に、それぞれ上限を増加(海外投資家の参入を促し銀行の資本を強化する)
  • CCI(日本で言う公正取引委員会)の関与:グループ内再編などを除き、銀行であってもAnti competitionのルールに従うことを明確化
  • 野党からの反対を受け、銀行の商品先物取引への参入を認める条項(Forward Market Contract clause)は削除
※街中を車で走っていると、やたらめったら銀行があってつぶれてしまうんではないか、、と懸念しますが、実はインドには200の銀行(いくつかの世界規模の巨大銀行を含む)が必要、言われているようです。(中国の3つの銀行が世界の銀行トップ20に入っているが、インドはゼロ)

[会社法] ※過去記事 会社法改正案、1万社を超えるCSR費用の負担と税務上の優遇
  • 時代遅れの条項を改めるとともに(今の会社法は1956年のものがベース)、コーポレートガバナンスを強化する:年間利益が5000万ルピーを超える会社は利益の2%をCSRに費やし、これをしない場合には説明義務が生じる(CSRに関する規定を法で義務付けるのはインドが初めてとか)、一定規模の会社には、女性の役員を1名取締役会に含めることを義務付ける、役員報酬は純利益の5%を上限とする、5年ごとに監査機関のローテーションを義務付ける、会社を使った詐欺的な行為を取り締まる機関(Serious Fraud Investigation Office)により強い権限を与える、など
  • 株主、投資家の権利の強化:クラスアクション制度の導入
  • 労働者保護の強化:清算する会社には2年分の給与を従業員に支払うことを義務付ける、従業員の平均給与を公表する
一見すると、むむむ、、、という内容もあり、細かく内容を確認する必要がありますが、取り急ぎ各紙から拾った概要まで。
なお、改正が議論されていた保険法や土地収用関連の改正案は、時間の関係上今国会での成立は難しいのでは、という見方がされています。

Pilot to pitch for tax relief on CSR spend

インド会社法は、元は1956年に作られたもので、ずいぶん時代遅れになっているということで改正案が現在国会にかかっていますが、今日の記事は、その中でも新しい制度を取り上げています。

企業の社会的責任(CSR) はもはや日本企業の半ば「常識」として理解されているのではないかと思いますが、インドでは、なんとCSRへの費用支出を促すため、一定規模以上の会社のうち、直近3事業年度の純利益の平均値の2%以上をCSRに関する費用に当てた場合、税務上の優遇を与える、とのこと。CSR費用の支出自体は義務ではないのですが、もしこれをしない場合には、その理由を報告しなければならず、これを怠った場合には、刑事罰を与えます、という仕組みにするそうです。
(ちなみに、委員会での議論時点では、CSRの支出自体を義務にする方向の議論だったようですが、大臣はそれはいけないね、ということで、もう少し自発的な仕組みに改めたようです。)

規模基準を満たす会社は、今のところ11000社から13000社ということで、それほど多くはないのですが、すぐに思う疑問は、何がCSRに関する費用で何が該当しないのか、って誰が判断するの?というところ。いましている費用の中でも、なんだか説明をこねくり回せば、当社のCSRはこうやって果たすんだ!といえてしまいそうな気もします。不当な場合は、上記の理由に虚偽があったとかいって、会社法上の責任を問えるようになるんでしょうかね。

ちなみに、会社法改正案では、会社の不正を防止するための開示義務の強化や、アメリカ的なクラスアクションの導入など、今までのインドの会社の仕組みにかなりのインパクトを与えかねない改正が多く含まれています。

http://www.livemint.com/Companies/9N6Z1gzLV7p63LD4nbw3TO/Sale-of-pledged-shares-touches-600-cr-an-alltime-hig.html

インドの上場企業において、運転資金等を借りるため、いわゆる創業家株主が自己の保有する株式に設定した担保権が実行され、売却される額が増加しているそうです(現時点で100億円弱、2011年の総額の7倍)。経済の鈍化、高い金利、継続するインフレなどが原因だそうですが、昨日のニュース同様、インドから見れば外国資本である日本企業にとっては、チャンスとも言えそうです。

http://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/Govt-set-to-ease-FDI-rules-for-companies/articleshow/16844865.cms

現在は当局による「承認」が必要な外国資本による新株予約権や一部払込株式(Partly paied-up shares)の利用について、一定期間内の政府への「報告」により発行できる方式に、切り替える方向とのことです。インド国内経済がやや鈍化を始めたため、政府は外資を呼び込む各種政策を打ち出しており、これもそのひとつといえます。インドへの出資方法の多様化を認めることで、より外国資本の選択肢を増やし、国内経済を活性化しよう、というものです。

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