blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

カテゴリ: 訴訟・紛争

デリーにある、インドの最高裁に見学に行ってきたので、備忘もかねて紹介します。

・ゲートを通過した後、進んで左手の場所でEntry passの発行を受ける必要あり。同行してくれた現地法律事務所の名前が書かれた申請書と、パスポートのコピーを提出する。職業を聞かれるので、弁護士と答える。なお、法廷番号が記入されるので、複数の法廷の案件を見たい場合、あらかじめ法廷番号を伝える必要がある。(なお、高裁以下のほかの法廷では、傍聴者の管理はもう少しゆるいらしい)

・基本的に法廷が開くのは月曜と金曜。朝10時半から。

・法廷は15個あり(今日開廷していたのは12)、Visitorの入口でpassを見せて傍聴席へ。それほど大きい部屋ではなく、しかも傍聴席の前に1メートルくらいの高さの判例集の本棚がぎっしり並べられている。したがって、座っていては法廷の様子が見えず、結局、各自が立って傍聴する。携帯は持ち込み不可で、おそらくかばんは持参しないほうが便宜。

・基本的な法廷の構造は日本の裁判所と同じ。判事が二人で、おそらくよりシニアと思われるほうが審理を進める。両サイドに記録の山が置いてあり、さくさくと案件を処理していく。ちなみに、私が見ていた30分の間に30件以上の案件が進んでいった。判事の前にそれぞれの書記官が立っている。その前に両当事者の代理人(Advocate)がいずれも判事のほうを向いて弁論をする(日本は代理人通しが相対すると思われるので、ここは少し日本と違う)。Adovocateは黒のガウンを着て、首に取り外しできるカラーをつけている。男性は白シャツに黒スーツがマストのようだが、女性はゆるいルールの様子。

・今回は、インド憲法136条の特別上告許可という手続で、Special leave petitionというものを提出した。高裁判決に納得がいかなかったので、上告の特別許可を最高裁にもらう、という手続。どうやらこの条文により、最高裁に書面を提出すること自体は容易にできるようで、そのために最高裁が混んでいたのではないかと推測している。

・インド的なのは、異様に混んでいるいること。もう少し 厳粛な雰囲気で進んでいくかと思ったら、次から次へと案件が進んでいくので、相当な密着度で多数のAdvocateたちが法廷の通路に立っている(待合いすはあるが案の定満席。。)。案件番号が右側に電子表示され、左側では他の法廷の案件進行状況もチェックできる。一人のAdvocateが同日に複数の法廷で案件対応をするための便宜と思われる。法廷の外もものすごい数のAdvocateたちが自分の番を待っていて、騒然としている。

・もう一点、印象的なのは、同行してくれた法律事務所にも当然パートナー弁護士がいるのだが、それとは別にSenior Advocateという相当シニアの弁護士に依頼して、彼に弁論をしてもらうという慣習。確かに見ていると、若手のAdvocateの弁論は一瞬で判事に切り捨てられてしまうが(終わった件の記録を書記官のほうに捨てるように投げるのが印象的。。)、Senior Advocateの場合、数分は弁論の時間を割いてもらっていた(素人的に聞いていても、それほどすごい内容を弁論しているわけではない場合も含む)。こんな属人的な取り扱いでいいのかしら、、と疑問に思うが、少なくとも今のインドの実務はこうなっている。Senior Advocateは忙しいようで、同行してくれた法律事務所も複数の件で別々のSenior Advocateを使っていた。なお、限られた時間の弁論なので、自分の主張の肝となる部分の書面のページ数を直ちに裁判官に言えることは必須の様子。

・白熱して弁論を展開しているものの、内容的にはいまいちなものも当然多く、判事が何度も主張を打ち切って次の事件に行こうとしているのに、あきらめないAdvocateも結構いた。彼らは、最後には冷たくSorryと判事に言われ、しぶしぶ去っていった。

・最高裁の判事は、一定の実務経験のあるAdvocateか、高裁の判事から任命される。高裁の判事も同じく、経験のあるAdvocateか地方裁判所の判事から。で、地方裁判所の判事はというと、法学部を卒業した学生が試験を受けて、その後1-2年の研修を経て、なることができる様子。

Sebi free to seize Sahara group firms’ properties: SC

過去記事 Saharaの転換社債、最高裁は再審査請求を棄却

以前書いたように、Saharaグループの2社が3000万人以上から集めた資金2400億ルピーについて、昨年8月に最高裁は、SEBIのルールに違反したとして、これを返金するように命じています。

これについて、Saharaサイドはいろいろな主張を重ねいまだにその一部しか支払いをしていないのですが、これについて、最高裁は、早くSEBIはSaharaの口座を凍結するなり、資産をさし押させるなりしなさい、という異例のコメントを発しました。どうやら、昨年の判決がそのとおりに執行されないことに、かなり不満を抱えているようです。

Shell India to challenge tax evasion order

世界二位の石油企業であるロイヤル・ダッチ・シェル(日本では昭和シェル石油が参加の法人)が、Vodafoneに引き続いて、インド税務当局から追徴課税要求を受けているという報道です。
過去記事 Vodafone事件に関する微妙な問題、解決への道のり遠く

Vodafoneの件では、外国の中間持株会社の株式の譲渡によるインド法人の支配権の取得についてインドでの課税が争われている(昨年最高裁ではVodafoneが勝訴したものの、その後当局がルールを遡及的に変更し現在も紛争継続中)のですが、今回は、Shellのインド法人が発行した株式をShellの海外法人が引き受けた際、この評価額が過小であり、課税を逃れたというもののようです。 Shellの評価では1株10ルピー(合計8.7億ルピー)、税務当局はこれを183ルピー(合計1522億ルピー)と主張しています。Shell側は、税務当局の解釈が不当であり、Shellはすべての法規制にしたがっているという主張をし、徹底的に争う姿勢のようです。一方、税務当局がどのような根拠でこの主張をしているのかは明らかではありません。

ただ、記事によれば、Shell以外にも、Nokia、ヒューレットパッカード、IBMなどの企業も同じくインド税務当局から追徴課税命令を受け取っているようです。この国の税務当局の動きには、本当に気をつけなければなりません。

SC dismisses Sahara plea on OFCD refunds

この問題、このブログを始めたときから一定の頻度で記事になっていたのですが、タイミングを逸していましたので、この機会に。

Saharaというインドのコングロマリッドのグループ会社2社が、2008年4月から2011年4月まで、Opitionally Fully Convertible Debentures (OFCDs:転換社債のようなものかと)を使って資金調達をした際、会社法やSEBI法が定める公募規制に違反したとして、2402億ルピーと15%の年利をつけて個人投資家に返金しなさい、という最高裁判決が昨年8月に出ています。ものすごい金額でし、年利がすごいですね。

上記の判決自体に対して、Saharaが昨年10月、最高裁に再審査を請求していたのですが、これが棄却されたと言うのが今回の記事です。 

さらにいうと、この返金期限はもともと11月だったのですが、Sahara側が別途ごねて時間的猶予を要求。最高裁はこれに対し、最初に512億ルピーを供託して、あとは今年1月と2月に残額を分割で払いなさい、と昨年12月に命じています。ただ、Saharaは、今度は新聞広告を使って、OFCDsの一部は償還されているから、残債は262億ルピーだ、と反論しているようです。。

最後におまけですが、Saharaはこの新聞の編集者などに名誉毀損の訴訟も提起しているそうです。もうこうなるとやりたい放題ですね。。

(1月14日追記)
昨年8月の判決の概要をもう少し補足します。
本来、50名以上の投資家に対して証券の募集をする場合には、(会社法に従うだけでなく、)日本の規制と同じく、SEBIルールに沿った開示手続きが必要となるのですが、なんとSaharaの2社は、3000万人以上の投資家を相手するのに、100万以上のエージェントを用意して、各エージェントは50人未満という要件を満たして募集していたから、SEBIルールにはそう必要がない、と主張していたようです。
どんな方法をとろうと、3000万人からお金を集めておいて募集ではない、、という主張をするなんて、すごすぎますね。。しかも、最高裁の認定では、各エージェントが知り合いのような小規模の人たち「だけ」に声をかけていたと言う実体もなかったようですし。なお、ほかにも会社法と、SEBIルールの整合性などをとう主張が色々交わされたようですが、実態から言って、これはSaharaサイドの主張は苦しすぎます。。
どうやら、当初からSEBIの調査以来に対しても協力的でなかったようですし、時間稼ぎのあの手この手を使っているあたりからも、かなり「筋の悪い」事案と言えます。その意味で、この判決の先例的価値がどこまであるのか、という点は慎重に理解すべきかと思います。

Reliance consumers won’t have to pay more for power
MERC order on cross-subsidy cess upheld
 
リライアンスもタタもインドの有名な財閥企業グループですが、ムンバイの電力供給事業について両者が争っていた事案について、先週21日、リライアンス側の主張を認める判決が出ました。

経緯としては、まず、もともとリライアンスが電力供給事業をしていたムンバイにおいて、2008年の判決後、タタも電力供給事業ができるようになりました。タタは、リライアンスの電線を借り、その対価として電線の使用量のようなもの(Wheel in charge)を払うことになりました。しかし、タタが主として電力を供給したのは、鉄道、石油精製業者、大規模住宅や商業施設などのハイエンドの顧客で、スラムなどに住んでいるローエンドの顧客のために積極的には電線の敷設をしていませんでした。そして、タタの電力の方が安かったので、リライアンスと契約していたハイエンドの顧客はリライアンスの電線を使いつつ、タタから電力を買うよう契約を切り替えたのです(「切替ユーザー」)。その結果、リライアンスの方にはローエンドの顧客がたくさん残りました(280万人のうち、230万人がローエンド)。
ここで問題になったのが、Cross subsidy(利用者間での補助金、とでも訳せましょうか)です。Cross subsidyとは、一定規模以上のハイエンドの顧客が払っている、ローエンドの顧客よりも高い電力使用量のことを言います。(低所得の電力利用者を助ける趣旨かと思われます)そして、切替ユーザーは、事実上リライアンスの電線を使いつつ、契約がタタになったら、リライアンスのローエンドの顧客のためにCross subsidyを負担しなくてもよくなったのです。
これに対して、リライアンスがこれはいかん!ということでタタに対して提起したのが本件訴訟です。一審はリライアンスが勝訴、高裁もこれを支持し、結論としては、切替ユーザーもCross subsidyを負担すべきであるとしました。そうしないと、リライアンス側のローエンドの顧客の電力使用量を値上げせざるを得ないためです。また、タタは、付与されたライセンスにしたがって、きちんと自分の電線を敷設するように、ということも判決は示しています。
ただ、切替ユーザーのうちの有力事業者、ムンバイ国際空港の運営会社とホテル・レストラン協会は、直ちに控訴しており、最終決定は最高裁に持ち越される、とのことです。

一時帰国しており中断しましたが、またこつこつ続けていきたいと思います。

Vodafone case fear: Settlement with telco may invite charges of undue concessions, large demands of refund

以下でもほんの少しだけ触れましたが、Vodafone事件についての解決を図るのは、なかなか難しいという記事です。
租税回避行為否認規定(GAAR)の取扱いが間もなく明らかに

そもそもどんな事件だったかですが、オランダのVodafoneが、2007年、インドの通信事業者Huthisonを買収した際、同社の株式を保有するケイマンやモーリシャスなどの持株会社の株式を取得する、という間接的な買収方法をとったのですが、これに対して、インド税務当局が課税漏れを理由に2000億ルピーの課税処分をしたことから問題になりました。このような間接買収スキームを使った節税スキームは一般的に使われていたため、海外投資家はびっくりしました。

これは裁判闘争となり、高裁では税務当局が勝訴したのですが、最終的に最高裁ではVodafone側の主張が認められました。ただ、これで終わらないのがインド。なんと政府は税法を遡及的に変更し、過去の間接取引についても課税できることを定めるルールを定めました。当然、外国投資家はさらにびっくりして、インド投資を引き上げました。 これではまずいと、Shome氏をトップとする特別委員会が、このような遡及的なルールの変更はいけない、仮にそうだないとしても、利息と違約罰は含めるべきではないとしましたという意見を出しています(この場合、Vodafoneの納税額は800億ルピーですみます)。

税務当局は今のところShome氏の意見には賛同しかねるとの立場ですが、いずれにせよ、Vodafone事件の処理をどうするかは非常に微妙な問題のようです。Vodafoneとの和解は今後の不正につながるのではないか、したがって軽い処分にはできないが他方で外国投資家からを遠ざけてしまいたくない、また、同種取引ですでに納税をしている人からの返金訴訟が起きるのではないか、というあたり。どれも難しい問題です。

聞くところでは、Vodafone事件以降、インドにおいて、類似のスキームが全くとられなくなったわけではない、とのこと。この場合、政府が最終的には外国投資家よりの判断をするはずだ、という見込みで進めているのかもしれませんが、インパクトの大きな話だけに、早く解決を図ってほしいところです。

Non-compete fees can be treated as deductible expense: Tribunal

 「創業家株主の非競業に関する報酬」って何のこと?という感じかと思いますので、順を追って説明します。

インド法にはPromoterという概念があり、おおむね日本の創業家株主(会社を作った社長さん)と理解していただければいいのですが、このPromoterのAさんが第三者Bさんに会社X社の株式を売却する場面を考えてください。通常、日本の実務だとこういう場合、Aさんに対して数年間の競業避止義務を課して、取引後、しばらくはX社と同じビジネスを、ほかの会社を新しく作ったり、他の人と組んだりして、やらないでね、というアレンジをします。こうしないと、Bとしては、X社を買ってそのノウハウを使って利益を上げようと思っていた買収の目的が、実現できなくなってしまうためです。

ただ、インドでは、契約終了後の競業避止義務は、ビジネスを不当に制限するものとして、基本的に認められていません(日本でもあまり長い競業避止義務は同じ理由で認められないと考えられています)。これだと、Bさんが困ってしまうのですが、あくまで認められないのは、契約「終了後」の競業避止義務であり、何らかの契約さえ存在していればその契約「期間中」は競業避止義務を課すことができるので、ここで、一つの工夫をします。 株の売買に伴って、BさんがAさんに一定の報酬を払って、「特定のビジネスをしない」という契約を結ぶのです。これにより、Bさんの目的が達成されます。(なお、これだとBさんが余計に経済的に負担しないといけないように見えますが、その分、株式の売買代金を安くするなどすれば、トータルの金額は同じです)

で、この支払いを、Non-compete fee(無理矢理日本語にしたのが、「創業家株主の非競業に関する報酬」)と呼ぶのですが、従前の判例では、これを税務上、設備投資の仲間として整理していました。この点が今回の判例では異なる結論になり、そうではなくて費用計上していいよ、ということになりました。すなわち、その分Bさん側の課税対象になる所得が減るので、タックスメリットがあることになります。

記事によると、過去設備投資と扱っていた事案と比較すると、競業避止の合意が買収の中核をなしていなかったこと、より具体的にいうと、この競業避止の合意が株式譲渡をクロージングするための前提条件になっていなかったこと、また、報酬の額がRBI(インドの中央銀行)の承認を受けた公正な価額であったことなどが、判断を分けたとのこと。

これは正確に理解するにはもう少し勉強が必要そうです。ややマニアックなな話ですが、実務的な影響は大きいと思われます。

http://economictimes.indiatimes.com/news/news-by-industry/healthcare/biotech/pharmaceuticals/overcharging-set-to-cost-pharma-companies-full-sales-revenue-of-drug/articleshow/16959641.cms

インドでは、薬品の販売については一定の公式に沿った価格が設定され、それが当局(National Pharmaceutical Pricing Authority: NPPA)に承認されなければなりません。これを怠って高い価格で製薬販売をしていた場合の制裁として、その薬の販売開始から当局からの価格に関する命令を受けるまでの間の、全売上げが承認のない販売であるとして、没収する、ということになるようです。(州政府も訴訟を提起する権限を持つようです)

とはいえ、違反に対する上乗せの罰金や、過剰価格分の利息などについてのルールはなく、またインドではそもそも訴訟に時間がかかることが指摘されており、これでは不十分という声も。

この批判は確かに、という気がします。インドでは、日々新たな規制を設けている気がしますが、誰がその規制を執行するのか(行政)、従わなかった場合に国家権力で強制できるか(司法)という部分は、正直あまり当てにならないのでは、、という懸念です。12億の超大国を動かす以上、まとまった数の優秀な人材が必要なのでは、と思うのですが、そういう人たちは公務員にはならないのでしょうか。

http://economictimes.indiatimes.com/news/news-by-industry/cons-products/durables/samsung-accuses-whirlpool-of-copying-product-design/articleshow/16935292.cms

知財の法廷闘争というと、AppleとSamsungが世界中で訴訟で争っていますが、ここインドでは、SamsungがWhirlpoolに対し、洗濯機、エアコン、冷蔵庫のデザインを模倣したとして、訴訟を提起したとのこと。

インドの冷蔵庫シェア3位のWhirlpoolは今年8月、インド企業Videoconに対する洗濯機の模倣に関する訴訟に勝ったところだったようですが、今度はシェア2位のSamsungからの知財訴訟の提起、ということで、このあたりの争いは激しいですね。ちなみに、冷蔵庫シェア1位は、同じく韓国のLGとのこと。日本の家電メーカーにも閑雅ってほしいところです。

http://economictimes.indiatimes.com/news/news-by-industry/indl-goods/svs/metals-mining/tci-sues-cil-directors-for-causing-rs-2-15-lakh-crore-loss-to-the-company/articleshow/16781529.cms

The Children's Investment Fund Managementというロンドンのファンドが、石炭国営企業の取締役などに対して、総額2兆ルピーの経営責任を追及する訴訟を提起したそうです。日本円で、ざっくり3兆円というところでしょうか。。すごい規模ですね。
新聞を読んでいると、ほかにも最近では石炭採掘権関係の汚職が問題となったりしており、いろいろ問題が多い分野のようです。

自分が継続して新聞をチェックするインセンティブとして、また、インドに興味のある日本企業の方に少しでも情報発信できればと思い、ブログを始めてみました。基本的に法務関連の切り口になると思いますが、新聞を斜め読みして気になった記事を紹介していきたいと思います。









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