blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

カテゴリ: 金融

Morgan Stanley to exit India banking on stricter rules

インドで銀行免許を持っていたモルガンスタンレーが、銀行免許を更新せず、投資銀行事業のみに集中するとのことです。ただし、NBFCとしては登録し、一定の金融事業はできるように保ちます。

銀行免許を維持するためには一定規模の資本やその他のリソースを維持しなければならないのですが、それが負担になったのだろう、とのこと。国内支店を持つにはさらなる資本支出が必要な上に、インドの銀行は、言っていき規模の農業事業への貸し出しも義務づけられており、これも負担と言えますね。

昨年3月に取得した銀行免許は、1年間これを利用しないと失効します。この期間を延長することは可能なのですが、モルガンスタンレーは延長はしないと決めました。
 
他の米系銀行はインド市場に参入していません。インドの町中を歩いていると感じますが、やたらめったら銀行の種類があり、国内での競争は厳しいのだろうと感じられます。一方で、新しい種類の銀行免許を認めようという動きもあるのですが(過去記事:銀行法、会社法改正案、下院にて可決)、各種負担とリターンの見込みを比べると、容易なマーケットとは言えないようです。

SC dismisses Sahara plea on OFCD refunds

この問題、このブログを始めたときから一定の頻度で記事になっていたのですが、タイミングを逸していましたので、この機会に。

Saharaというインドのコングロマリッドのグループ会社2社が、2008年4月から2011年4月まで、Opitionally Fully Convertible Debentures (OFCDs:転換社債のようなものかと)を使って資金調達をした際、会社法やSEBI法が定める公募規制に違反したとして、2402億ルピーと15%の年利をつけて個人投資家に返金しなさい、という最高裁判決が昨年8月に出ています。ものすごい金額でし、年利がすごいですね。

上記の判決自体に対して、Saharaが昨年10月、最高裁に再審査を請求していたのですが、これが棄却されたと言うのが今回の記事です。 

さらにいうと、この返金期限はもともと11月だったのですが、Sahara側が別途ごねて時間的猶予を要求。最高裁はこれに対し、最初に512億ルピーを供託して、あとは今年1月と2月に残額を分割で払いなさい、と昨年12月に命じています。ただ、Saharaは、今度は新聞広告を使って、OFCDsの一部は償還されているから、残債は262億ルピーだ、と反論しているようです。。

最後におまけですが、Saharaはこの新聞の編集者などに名誉毀損の訴訟も提起しているそうです。もうこうなるとやりたい放題ですね。。

(1月14日追記)
昨年8月の判決の概要をもう少し補足します。
本来、50名以上の投資家に対して証券の募集をする場合には、(会社法に従うだけでなく、)日本の規制と同じく、SEBIルールに沿った開示手続きが必要となるのですが、なんとSaharaの2社は、3000万人以上の投資家を相手するのに、100万以上のエージェントを用意して、各エージェントは50人未満という要件を満たして募集していたから、SEBIルールにはそう必要がない、と主張していたようです。
どんな方法をとろうと、3000万人からお金を集めておいて募集ではない、、という主張をするなんて、すごすぎますね。。しかも、最高裁の認定では、各エージェントが知り合いのような小規模の人たち「だけ」に声をかけていたと言う実体もなかったようですし。なお、ほかにも会社法と、SEBIルールの整合性などをとう主張が色々交わされたようですが、実態から言って、これはSaharaサイドの主張は苦しすぎます。。
どうやら、当初からSEBIの調査以来に対しても協力的でなかったようですし、時間稼ぎのあの手この手を使っているあたりからも、かなり「筋の悪い」事案と言えます。その意味で、この判決の先例的価値がどこまであるのか、という点は慎重に理解すべきかと思います。

Sebi to pass final order on RIL insider trading

日本でいう証券取引等監視委員会と金融庁のようなな役割を果たしているSEBI(Securities and Exchange Board of India)。リライアンスの2007年のインサイダー取引疑惑について、同社との司法取引には至らなかったので、新市場へのアクセス禁止や上場廃止などのさらに強い措置を検討する、とのことです。

前提として、このような司法取引自体は、2007年に米国の制度を真似して導入されたもの。調査対象となった企業・個人が、捜査に協力して一定のお金を払うことで、当局はそれ以上の訴追をしない(調査対象も有罪かどうかを認める必要はない)という制度で、有限な司法資源を効率的に使うためのものです。日本にはこのような制度はないですね。

で、報道によれば、2007年、リライアンスがグループ会社リライアンス石油との合併に先立ち、同社の株式を売買したことがインサイダー取引に当たるとされています(51億ルピーの不正な利益を上げたとされています)。この件について、2008年にはSEBIの調査が始まり、2010年からは準司法的な手続きが進んでいて、3度の司法取引が試みられたが、現時点では合意に達していない、という状況です。事実関係の詳細は不明ですが、SEBIの態度から見て、それなりに確度の高い有罪の証拠があるのでは、、と推測されます。

この司法取引が失敗した後の流れとしては、直ちにいわゆる刑事裁判になると言うわけでも必ずしもないようです。(ちなみに刑事裁判の場合、2.5億ルピーか、インサイダー取引を通じて得た利益の3倍の、高い方の罰金刑です) その中間的な性質の手続きとして、SEBI ACT 11Bという規定があり、これはSEBIが投資家や資本市場の利益のために、適切な命令を出せるというものです。この条文だけ読んでもよくわかりませんが、記事によると、資本市場を通じた資金調達の禁止や、上場廃止、さらに(議論はあるものの)不正な利益の吐き出し、などを命じることができるとのこと。

今後の動向を見守る必要がありますが、SEBIとしては、調査開始から4年以上経過していますし、過去最大規模の案件のようなので、妥協した形の結論は難しいのでしょうね。

(備忘)
司法取引(Consent Order)のガイドラインです。

Finally, RBI gets power to issue new bank licences
Lok Sabha passes Companies Bill
Lok Sabha passes companies, banking Bills
Corporates set to open bank accounts

昨夜かなり遅くまで国会審議が続いたようですが、 銀行法と会社法という重要法案が二つ下院で可決されましたので、今日はそのニュースを。今後は、上院での審議に移ることになると思われます。

[銀行法] ※過去記事 銀行法改正案、野党との激しい攻防続く
  • RBI(インドの中央銀行)の権限強化:銀行を持つ事業集団の帳簿を検査できる、役員の氏名ができる、一定割合の銀行株式のまとまった取引に拒否権を行使できる(過去、実際にこのような問題が起き、RBIがどこまでの権限を行使できるのか議論になったため) →以上の改正が前提条件となって、将来的には、RBIが新しい種類の銀行免許を発行し、NBFC(銀行ではない金融機関)のL&Tや財閥系のTataなど、銀行免許に関心を持つ民間企業の参入を認めるようにする(顧客には選択肢が増え、より広いエリアがカバーされるようになる、はず)
  • 銀行に対する投資家の持分割合の増加:民間の銀行は現在の10%から26%に、国有銀行は1%から10%に、それぞれ上限を増加(海外投資家の参入を促し銀行の資本を強化する)
  • CCI(日本で言う公正取引委員会)の関与:グループ内再編などを除き、銀行であってもAnti competitionのルールに従うことを明確化
  • 野党からの反対を受け、銀行の商品先物取引への参入を認める条項(Forward Market Contract clause)は削除
※街中を車で走っていると、やたらめったら銀行があってつぶれてしまうんではないか、、と懸念しますが、実はインドには200の銀行(いくつかの世界規模の巨大銀行を含む)が必要、言われているようです。(中国の3つの銀行が世界の銀行トップ20に入っているが、インドはゼロ)

[会社法] ※過去記事 会社法改正案、1万社を超えるCSR費用の負担と税務上の優遇
  • 時代遅れの条項を改めるとともに(今の会社法は1956年のものがベース)、コーポレートガバナンスを強化する:年間利益が5000万ルピーを超える会社は利益の2%をCSRに費やし、これをしない場合には説明義務が生じる(CSRに関する規定を法で義務付けるのはインドが初めてとか)、一定規模の会社には、女性の役員を1名取締役会に含めることを義務付ける、役員報酬は純利益の5%を上限とする、5年ごとに監査機関のローテーションを義務付ける、会社を使った詐欺的な行為を取り締まる機関(Serious Fraud Investigation Office)により強い権限を与える、など
  • 株主、投資家の権利の強化:クラスアクション制度の導入
  • 労働者保護の強化:清算する会社には2年分の給与を従業員に支払うことを義務付ける、従業員の平均給与を公表する
一見すると、むむむ、、、という内容もあり、細かく内容を確認する必要がありますが、取り急ぎ各紙から拾った概要まで。
なお、改正が議論されていた保険法や土地収用関連の改正案は、時間の関係上今国会での成立は難しいのでは、という見方がされています。

Congress now sans Oppn licence for bank reforms as BJP acts tough, BSP seeks quid pro quo

 本国会では、銀行法の改正も審議されていますが、野党の厳しい反対にあっているようです。

今回の改正案では、民間銀行の投資家の議決権が現在10%に制限されているものを、26%まで引き上げるとともにRBI(インドの中央銀行)の監督を強める(国有銀行についても、現在の1%から10%への引き上げを検討中)としていますが、これが、立法に関係した委員会(Standing committee)の作った法案には含まれていなかったとして、野党が批判しています。実際、会社法の改正案については、このような批判を受けて実際にStanding committeeに差し戻された実例があり、これと同じ扱いをすべきだ、という主張です。国会審議もこれで一時ストップしているとか。
(これらの数値は初めて知りましたが、改正後の数字を見ても、やはり金融業界については国のコントロールが非常に強く残っているのだなというのが印象です。。)

銀行法とは別に、インド社会において虐げられてきた人たちのために政府の仕事のうち一定のものをその人たちのわくとする法律案(quota bill)というのが別途議論になっているようで、こちらは政治的には(選挙対策的には)重要なポイントと思われます。このあたりの駆け引きが銀行法改正案の成立にも影響すると思われます。



http://www.hindustantimes.com/News-Feed/BusinessBankingInsurance/Banks-shy-away-from-consumer-goods-loans/Article1-954835.aspx

記事によれば、耐久消費財への銀行へのローン残高は、半年前より20%縮小し、代わりにNon Banking Finance Companies(NBFC)のローンが伸びているようです。上記銀行ローンは無担保で金利が高いため、弁済が滞ってしまう確率も高いようで、銀行もローンを渋りがちのようです。銀行の担当者は、家電の価格の下落がローン残高の縮小と見ているますが、他方、NBFCの耐久消費財へのローンが伸びているため、おそらくは 銀行からNFBCへ、ローンの需要がシフトしている様子。ちなみに、NBFCは、消費者からの金利をゼロとし、家電製造業者から販売にリンクした支払いを受けるという仕組みもできるため、消費者から見ると、魅力的なものと思われます。(その分そのまま、商品の価格に転嫁されていたら意味がないんですが、おそらくプロモーション的な値引きはしているかと)

ちなみに、NBFCのうち、ローンなど一定の類型のみを行うものは政府承認なしで100%外資も参入可能です。聞くところによると、まだあまり同業者も多くないとか。一方、日本ではこういう金融の仕組みって、色々ありますよね。日本企業のチャンスです!!

http://economictimes.indiatimes.com/news/economy/finance/banks-plan-to-drag-finance-companies-of-car-makers-to-cci/articleshow/16945204.cms

インドでは最近、トヨタを含む外国の高級車メーカーを中心に、各自動車メーカーが購入者向けの自動車ローンを付けられるノンバンクのエンティティ(Non Banking Finance Company:NBFC)を自前で用意し、セット販売しているようです。これに対し、このような取り扱いが一般の金融機関がローンを提供する機会をを排除しているとして、日本でいうところの公正取引委員会に提訴することを検討中、という報道です。自動車会社の提供するローンは、市中の一般のローンの金利10-12%(日本の感覚からするとものすごい金利ですね。。。)より2%ほど安く、これ自体をみるとユーザーにもメリットがあるのですが、金融機関サイドは、消費者の選択の機会が失われている、との主張を考えているようです。

話はややそれますが、インドでは、日本では一般的なローンやリース、クレジットやプリペイドカードなど、様々な金融の仕組みが未発達で、比較的原始的な形で取引が行われているとされています。日本の金融関係の各社にとっては、チャンスといえそうです。

http://www.hindustantimes.com/News-Feed/BusinessBankingInsurance/New-foreign-insurers-eye-Indian-entry/Article1-946749.aspx

 今度の冬の国会にて、現在の保険会社の外資の比率を26%と定める保険法の改正案を通したい、と財務大臣がコメントしたとのこと。法案自体の作成からは既に3年が経過しているものの、保険を普及させるため、業界全体で60億米ドルの資本が必要というのが背景にある。生保の普及率が4.4%で、非生保が0.76%なので、すごい潜在マーケットですね。当然、世界の保険会社が狙っているとのことですが、既に合弁で進出している企業も多いでしょうから、その契約の改定が必要になりそうですね。

もともと26%持っていた場合、既に特別決議の拒否権は持っていたわけで(日本と異なり、特別決議事項は75%が基準)、それが49%になっていても、依然として拒否権を持つマイノリティ、という立場は変わりませんね。 まあ会社に送り込む役員の方の数は、出資割合に応じて増えることにはなりますが、49%になった後、合弁会社全体のオペレーションをどこまで外資側のコントロールにおけるようになるかというと、そこは、まだまだ、ということなのでしょうか。ただ、今後も外資へ規制緩和の流れは止まらないでしょうから、次の緩和(外資による過半数の保有可)を見据えてのステップの一つ、という位置づけでしょうかね。

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