blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

カテゴリ: 税務

Shell India to challenge tax evasion order

世界二位の石油企業であるロイヤル・ダッチ・シェル(日本では昭和シェル石油が参加の法人)が、Vodafoneに引き続いて、インド税務当局から追徴課税要求を受けているという報道です。
過去記事 Vodafone事件に関する微妙な問題、解決への道のり遠く

Vodafoneの件では、外国の中間持株会社の株式の譲渡によるインド法人の支配権の取得についてインドでの課税が争われている(昨年最高裁ではVodafoneが勝訴したものの、その後当局がルールを遡及的に変更し現在も紛争継続中)のですが、今回は、Shellのインド法人が発行した株式をShellの海外法人が引き受けた際、この評価額が過小であり、課税を逃れたというもののようです。 Shellの評価では1株10ルピー(合計8.7億ルピー)、税務当局はこれを183ルピー(合計1522億ルピー)と主張しています。Shell側は、税務当局の解釈が不当であり、Shellはすべての法規制にしたがっているという主張をし、徹底的に争う姿勢のようです。一方、税務当局がどのような根拠でこの主張をしているのかは明らかではありません。

ただ、記事によれば、Shell以外にも、Nokia、ヒューレットパッカード、IBMなどの企業も同じくインド税務当局から追徴課税命令を受け取っているようです。この国の税務当局の動きには、本当に気をつけなければなりません。

Google India's business dictated by company's Ireland unit: I-T department

GoogleやAmazonなど世界的な企業の節税スキームのすごさは近時注目を集めていますが、ここインドでも同様の問題があるようです。

2008年から翌年にかけてGoogleのインド法人がアイルランド法人にした支払いは、実はインドにおける課税所得であり、これが源泉徴収されていなかったのは違法だとして税務当局が主張し、インド法人に7.6億ルピーの制裁金を課しています。これに対し、アイルランド法人は、通常の裁判手続きではなく、AAR(Authority for Advance Rulings)を利用して、早期の紛争解決を図りたいとしています。

ARRは、退任した最高裁判事がトップとなり、非居住者が租税債務に関して紛争を抱えた際に利用できる制度です。裁判よりも早期に解決ができ、その決定は、申し立てた当事者と租税当局を拘束するところに特徴があります。

2013 projetcs new highs for markets as GAAR gets deferred to 2016

過去記事
GAARはいつ施行?予期せぬEUからの早期施行の圧力
租税回避行為否認規定(GAAR)の取扱いが間もなく明らかに

GAAR(一般的租税回避否認規定)の導入が昨年3月の予算案からずっと議論されてきましたが、結局、既に公表されていた1年延期して2014年4月から、というのをさらに2年延期して、2016年4月から適用開始、ということで落ち着きました。外国投資家もこれを好感したようで、ボンベイ取引所の指数は2年ぶりの高値に届いたようです。

従前より、税務当局側の裁量が強く認められ得るところが大きな懸念事項となっていましたが、これからほぼ3年間は、このルールの適用に備えてスキームを構築する準備期間ができたと言えます。昨年前半の経済のスローダウンを受け、政府が矢継ぎ早に対応した昨年後半からの各種投資刺激策の一部と位置づけられるのだと思います。当初の混乱を招いた点はさておき、外国投資家にとっては穏当な結論に落ち着き、よかったと思います。

Poke Me: Why the rich should not be taxed more

今日は社説からです。

アメリカはFiscal Cliffの回避策として年間400,000ドル以上の所得のある人に増税したり、フランスでは75%の所得税をかけようとしたり、 我が国も富裕層の増税が検討されていたり。で、ご多分に漏れず、インドでも同様の議論があるようです。

現在のインドの所得税の最高税率は30%ですが、その他付加税があって、確かプラス数パーセントされています。 ただ、実際にインドで所得税を払っているのは、国民の3%以下。。人口が12億いて、年間100万ルピー以上の所得を申告する人は、140万人しかいないそうです。びっくりですね。
社説は、所得税の最高税率引き下げに否定的な態度。この前、フランスの俳優さんも効率の所得税が嫌だからってロシアに国籍を移してましたしね。。それじゃいけませんと。むしろ、現在導入が議論されている物品サービス税(GST)を導入すること、および税務の執行をしっかりすることだと言っています。

なお、相続税は、1953年に導入されたものの、1985年に廃止されています。世代間の所得格差の是正には資するものの、お金持ちが蓄財をするインセンティブをそぐとか、所得隠しのスキームが跋扈するとか(社説ではアメリカ実情はひどいと批判しています)、マイナス面があるから、いまいちだよね、ということのようです。 

ここまで読んで大体察していただけると思いますが、当然インドでは税収が足りません。
関連する日本語の記事がありましたので、ご参考まで。「税収はGDP比18%で、BRICs諸国4カ国(ブラジル・ロシア・インド・中国)で最も低い水準だ。」とのことです。
税収不足に苦しむインドが税制改正にまい進
 
ただ、昔はすごかったようで、「1971年には97.5%だった個人所得税の最高税率が現在は30%に引き下げられている。」って。。97.5%って誰が働く気になるのでしょうか。

GAAR: European Union wants member states to adopt common general anti-avoidance rules

一般な租税回避行為の否認規定(General Anti-Avoidance Rules:GAAR)というのは、租税回避を唯一の目的として行われたどんな行為についても、租税城の恩恵を認めないものとするルールですが、これについては先日も触れたところです。

租税回避行為否認規定(GAAR)の取扱いが間もなく明らかに

国内・海外の批判に配慮して、既に1年遅らせた施行時期を2016-17年までさらに遅らせるべきだという委員会の提言がありましたが、これを逆に強化すべきだろ言う声が、なんとEUからきているという報道です。どうやら、EU全体で1兆ユーロが毎年租税回避行為により徴収できていないとか。こうなってくると、公平な税の徴収という税制度の根幹を揺るがすような話になってくるので、EUも各国に国内体制の整備を求めているようです。

インドはEUのメンバーではないですから、直接的にはEUからのコメントにしたがう根拠はないように思うので、あくまで政治的な話なのかもしれません。ただ、Taxについては、新たに進出する日系企業のスキームにも、既に進出済みの日系企業にもクリティカルに影響する話なので、今後も動向を注視する必要があります。



Vodafone case fear: Settlement with telco may invite charges of undue concessions, large demands of refund

以下でもほんの少しだけ触れましたが、Vodafone事件についての解決を図るのは、なかなか難しいという記事です。
租税回避行為否認規定(GAAR)の取扱いが間もなく明らかに

そもそもどんな事件だったかですが、オランダのVodafoneが、2007年、インドの通信事業者Huthisonを買収した際、同社の株式を保有するケイマンやモーリシャスなどの持株会社の株式を取得する、という間接的な買収方法をとったのですが、これに対して、インド税務当局が課税漏れを理由に2000億ルピーの課税処分をしたことから問題になりました。このような間接買収スキームを使った節税スキームは一般的に使われていたため、海外投資家はびっくりしました。

これは裁判闘争となり、高裁では税務当局が勝訴したのですが、最終的に最高裁ではVodafone側の主張が認められました。ただ、これで終わらないのがインド。なんと政府は税法を遡及的に変更し、過去の間接取引についても課税できることを定めるルールを定めました。当然、外国投資家はさらにびっくりして、インド投資を引き上げました。 これではまずいと、Shome氏をトップとする特別委員会が、このような遡及的なルールの変更はいけない、仮にそうだないとしても、利息と違約罰は含めるべきではないとしましたという意見を出しています(この場合、Vodafoneの納税額は800億ルピーですみます)。

税務当局は今のところShome氏の意見には賛同しかねるとの立場ですが、いずれにせよ、Vodafone事件の処理をどうするかは非常に微妙な問題のようです。Vodafoneとの和解は今後の不正につながるのではないか、したがって軽い処分にはできないが他方で外国投資家からを遠ざけてしまいたくない、また、同種取引ですでに納税をしている人からの返金訴訟が起きるのではないか、というあたり。どれも難しい問題です。

聞くところでは、Vodafone事件以降、インドにおいて、類似のスキームが全くとられなくなったわけではない、とのこと。この場合、政府が最終的には外国投資家よりの判断をするはずだ、という見込みで進めているのかもしれませんが、インパクトの大きな話だけに、早く解決を図ってほしいところです。

Non-compete fees can be treated as deductible expense: Tribunal

 「創業家株主の非競業に関する報酬」って何のこと?という感じかと思いますので、順を追って説明します。

インド法にはPromoterという概念があり、おおむね日本の創業家株主(会社を作った社長さん)と理解していただければいいのですが、このPromoterのAさんが第三者Bさんに会社X社の株式を売却する場面を考えてください。通常、日本の実務だとこういう場合、Aさんに対して数年間の競業避止義務を課して、取引後、しばらくはX社と同じビジネスを、ほかの会社を新しく作ったり、他の人と組んだりして、やらないでね、というアレンジをします。こうしないと、Bとしては、X社を買ってそのノウハウを使って利益を上げようと思っていた買収の目的が、実現できなくなってしまうためです。

ただ、インドでは、契約終了後の競業避止義務は、ビジネスを不当に制限するものとして、基本的に認められていません(日本でもあまり長い競業避止義務は同じ理由で認められないと考えられています)。これだと、Bさんが困ってしまうのですが、あくまで認められないのは、契約「終了後」の競業避止義務であり、何らかの契約さえ存在していればその契約「期間中」は競業避止義務を課すことができるので、ここで、一つの工夫をします。 株の売買に伴って、BさんがAさんに一定の報酬を払って、「特定のビジネスをしない」という契約を結ぶのです。これにより、Bさんの目的が達成されます。(なお、これだとBさんが余計に経済的に負担しないといけないように見えますが、その分、株式の売買代金を安くするなどすれば、トータルの金額は同じです)

で、この支払いを、Non-compete fee(無理矢理日本語にしたのが、「創業家株主の非競業に関する報酬」)と呼ぶのですが、従前の判例では、これを税務上、設備投資の仲間として整理していました。この点が今回の判例では異なる結論になり、そうではなくて費用計上していいよ、ということになりました。すなわち、その分Bさん側の課税対象になる所得が減るので、タックスメリットがあることになります。

記事によると、過去設備投資と扱っていた事案と比較すると、競業避止の合意が買収の中核をなしていなかったこと、より具体的にいうと、この競業避止の合意が株式譲渡をクロージングするための前提条件になっていなかったこと、また、報酬の額がRBI(インドの中央銀行)の承認を受けた公正な価額であったことなどが、判断を分けたとのこと。

これは正確に理解するにはもう少し勉強が必要そうです。ややマニアックなな話ですが、実務的な影響は大きいと思われます。

http://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/GAAR-amendments-finalized-Chidambaram/articleshow/17274368.cms

財務相のChidambaram氏によれば、課税逃れを目的とする行為を事後的に税務当局が否認し課税することができる租税回避行為否認規定(GAAR: General Anti Avoidance Rule)を含む所得税法の修正案が間もなく完成し、首相と内閣の承認手続きに入るようです。

近年、非常にアグレッシブな態度をとって、裁判覚悟の?課税措置を取っているインドの税務当局がこのような広範な権限を持つことについては、国内外の投資家から反対の声が上がっていました。当初、この規定は遡及効を持つ(立法前の取引にもさかのぼって適用される)という見解を政府が表明したこともあり議論が紛糾し、Shome氏という税務の専門家をトップにする委員会からは、9月にGAARの施行を3年間延期するべきだと表明されています。果たして最終的にどのような結論となるのか、注目が集まっています。

政府も、様々な汚職疑惑の影響やVodafone事件の影響で外国投資家がインド投資に及び腰になっていることは十分承知しているところだと思いますので、ここは、現実的な落としどころを期待したいところですね。

http://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/After-stamp-duty-fee-VAT-cannot-be-levied-argue-builder-lobbies/articleshow/16985794.cms

VAT(付加価値税)についての訴訟経過に関するニュースです。VATとはインドにおける州により課税される間接税で、物品によって税率はまちまちですが、12.5%というものが多いようです。当局がディベロッパーに対し、販売したFlat(マンション)についてのVATの支払いを請求しているのに対し、ディベロッパーがいくつかの反論をしています。

不勉強なのでディベロッパー側の議論の詳細が理解しきれていませんが、VAT自体は2005年に導入された比較的新しいもので、物品の販売のみに課されるもの、とのことですが、新聞記事では、これが2006年に改正され、ディベロッパーによるImmobable propertyの販売も課税対象としたことで、今回の紛争が起きているようです。今回の判決次第で、2006年から2010年に建設中の物件を買った全ての人たちも課税対象になりうるようで、インパクトの大きい話と言えます。

http://economictimes.indiatimes.com/news/news-by-industry/auto/automobiles/supreme-courts-excise-duty-ruling-throws-automobile-makers-off-gear/articleshow/16909509.cms

先月のFiatらに対する最高裁判決が明らかになり、その中で、間接税を扱う税務当局は、仮に販売価格が費用価格を下回っていても、費用価格を基準に課税をすることが許される、とされたそうです。(その結果、損失を生む販売価格は、間接税を課すことができる"normal price"ではないとされ、1996年から2001年の取引について、追加の税金を払ったようです)

通常は、企業は当然コストに利益を上乗せして販売するわけですが、記事によれば、特定のシーズンや、在庫がたまってしまった場合、原材料価格が為替の関係で突然変化した場合など、費用価格を下回る販売を行う場合もありうるとのこと。様々な業界に影響が波及しうるようで、自動車業界でも緊急対策会議が開かれたそうです。

本件の動向を今後も追いたいと思います。

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