2012年10月に開始したこのブログも早3ヶ月。年末ということもあり、少し趣向を変えて、インドに来てから気づいたことを雑多に書こうと思います。自分の専門分野でないことも感覚的に書いていますので、実際違うということももちろんあろうかと思いますが、一つの意見としてご参考までに。
 
1.インドに関する正確な情報を得ることは難しい
このブログを始めた一つのきっかけでもありますが、一部の有料の情報ソースを除いて、インドの実態に関する日本語の情報を得ることはなかなか容易ではありません。
(インドの新聞記事からブログを書いているくせにこんなこと言っては元も子もないのですが、)インドの新聞自体、どうも商業主義の傾向が強いのか、正確な情報ではないこともしばしばあるようで、ある教養のあるインド人と話していたところ、新聞の記事はあまり信じていない、とのことでした。とはいえ、全く日本語の情報がない状態に比べたら、少しでもとっかかりになる情報はあった方がよいかと思いますので、このブログも、来年も続けていきたいと思っています。

2.インド投資は数年単位ではうまくいかない(成功するには一日でも早く進出すべき)
こちらにきて日系企業の方と直接お話しさせていただく機会も多いのですが、大多数の方が、思うようにビジネスがうまくいっておらず、数年たってもまだまだ赤字です、、というお話がほとんどです。海外進出の一般論として、新しいマーケットで最初苦労するのは当然なんでしょうが、12億とも言われるマーケット規模に対する期待感がどうしても大きいため、そのギャップ感が苦労をより大きく感じさせているのかもしれません。
一方、インド市場で存在感を持っている数少ない業界である自動車産業は、10年、20年以上前から進出して独自の苦労をされた結果が今、現在のシェアなのだろうと思っています。私自身、もう1、2年でも早くインドに来ていたら、もっとうまく仕事ができているのではないか、、と思うことも多いのですが、今更それを言っても仕方ありません。
将来的なインド進出を検討されている企業の方に言えることは、日本で限られた範囲で情報収集をするのであれば、一日でも早く自社の人材を現地に送ってビジネスの可能性を探る方が、何倍も有益だ、ということです。(なお、時間を買うという意味でのM&Aは非常に有益な手段ですが、既存のインド法人を日系企業が買収する際には、日本の感覚からすれば相当なリーガルリスクを取っている、という意識を忘れてはいけないと思います)
今のところ、感覚的には、インド投資は「宝くじ」くらいの期待値でしょうか。大半はお金の無駄かもしれません、でも、宝くじを買わなければ絶対に当たりません。

3.実際上問題になるルールの多くが連邦ではなく州のルールである
インド憲法上、連邦政府の管轄事項、州政府の管轄事項、両方の共同管轄事項の3つが規定されていますが、実際上、州が権限を持っていることが思った以上に多く、インド国内の複数の場所でビジネスを展開する場合、それぞれ現地に応じたルールを把握する必要があります。たとえば、外資規制、会社法、証券法制なんかは連邦法なのですが、労働法、不動産関係、各種ビジネスに必要なライセンスなどビジネスを進める上でより具体的に問題になるルールは州法マターであることが多いです。そして、こういった情報に日本人がアクセスすることは容易ではありません。このあたりは、ビジネス上の必要経費と割り切りとして、コストを払ってでも、信頼できるインドのコンサル、弁護士、会計士などのプロを雇って進めることがマストだと思われます。

4.立法により予定されている国の姿と、実際の国の姿は大きく乖離している
一般論として、インドは法治国家である、といわれてますが、何を持ってインドが法治国家なのかは大いに疑問です。成文法がたくさんあることを持って十分とするならば、確かにそうかもしれません。ただ、重要な成文法が時代遅れだったり、法令相互の関係がよくわからなかったり、特に政令・府令レベルになると条文の作りがいまいちだったりします。また、ご案内の通り、法の実際の適用・執行を見れば、とうてい法治主義が行き届いている国家と言えるレベルとは思えません。このあたりは、行政・司法のインフラが国の成長スピードに追いついていないのが原因かもしれません。また創業株主たる地位、会社役員たる地位などを不正に利用し、会社、証券市場など通じて不正な利益が社会の一部に集まっている、という実態もまだまだ是正されていないように思います。
いずれにせよ、立法がどうなっているかを把握するだけでは、この国の実態を理解するには、全く不十分と言わざるを得ません。

5.インド人は過去をあまり気にしない、未来を見ている
日本人の感覚からすると、過去、一定のルールでやってきたことを何かの理由で変えなければならないとき、常に「継続性」の議論が出てきます。今、ここでルールを変えると、過去の一連の出来事も実は正しくなかったのではないか、という問題が起こるから、できるだけルールを変えたくない、、というものです。(日本人の真面目さが原因なのでしょうか)
一方、インド人はあまりそういった関心はないようです。60年前にできた憲法だって、100回近く改正していますし(そもそも長文で、かなり細かい内容を規定していることにも原因がありますが)、ある人は、朝令暮改ではな朝令「朝」改の感覚でルールが変わると言っていました。改正したルールの遡及適用、なんて日本ではありえないようなことも、平気で議論になったりします。また、企業買収のプライシングについても、インド人は(過去の財務諸表はともかく)バラ色の事業計画に基づいて売却価格を提示してくるようで、その当たりも日本人とは全然感覚が異なります。(最後の点は、既に成熟した国家と、これから成長していく国家の間にある、一般的な違いなのかもしれません。)

6.インドにはお金がない、インフラ整備、雇用確保は外資頼みである
ボーダフォン事件などのインド税務政策もそうですし、FDI規制の解放もそうですが、インド国内には国の成長に必要なインフラを整備するに十分なお金は全くありません。国の大きさ、人口の多さに比べて、やはり財政的な基盤は貧弱過ぎるのだと思います。その意味で、外資からお金を出してもらえるような政策になりますし、逆にインドへ進出する企業としては、そのような費用(税務リスクを含む)も込みで投資総額を判断し、それでも見合うリターンがあるかを判断していくことになるのだと思います。
もう一点、インドにいて感じることは、やはり製造業が著しく貧弱なんだと思います。ショッピングモールやホテルでも、手持ちぶさたな従業員がたくさんいます。第三次産業でむりに雇用を作っていますが、まさに無理矢理で、本来的には、もっと第二次産業が発達しないと国を維持できないはずです。その意味で、日本が存在感を示せる可能性は、無限に広がっていると感じます。

7.インドはまだまだ×2、日本と比べたら発展途上の社会である
4.や6.の内容とも重複しますが、物質的にも精神的にも、まだまだインドは発展途上の国家だと思います。公務員に賄賂を渡すのは当たり前、男尊女卑の考えは当たり前(直近で話題となっているレイプ事件も然り)、禁止されたはずのカーストに基づく差別も実際は残っている、英語がビジネスで通じると言っても国全体で見たら教育水準は著しく低い、農村部を中心に貧困問題が解消されていない、などなど、挙げたらきりがありません。その意味で、日本の商品・サービスをこの国で提供するには、相当大きな価値観の差異を前提とした、商品開発、マーケティングなどが必要なのかな、というのが素人意見です。
なお、いやこれがインドなんだ、こういったインドの時間の流れ方が好きだ、このままの姿であってほしい、という意見も一理あろうかと思います。ただ、そんな風に思っているインド人がどれくらいいるのかは不明で、ネットで世界中の先進国の情報が入ってくる現在、やはりこれらの国のように(少なくとも物質的には)豊かな生活を送りたい、というのが人間の心理なのかな、、という気がします。