blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

2013年01月

Poke Me: Why the rich should not be taxed more

今日は社説からです。

アメリカはFiscal Cliffの回避策として年間400,000ドル以上の所得のある人に増税したり、フランスでは75%の所得税をかけようとしたり、 我が国も富裕層の増税が検討されていたり。で、ご多分に漏れず、インドでも同様の議論があるようです。

現在のインドの所得税の最高税率は30%ですが、その他付加税があって、確かプラス数パーセントされています。 ただ、実際にインドで所得税を払っているのは、国民の3%以下。。人口が12億いて、年間100万ルピー以上の所得を申告する人は、140万人しかいないそうです。びっくりですね。
社説は、所得税の最高税率引き下げに否定的な態度。この前、フランスの俳優さんも効率の所得税が嫌だからってロシアに国籍を移してましたしね。。それじゃいけませんと。むしろ、現在導入が議論されている物品サービス税(GST)を導入すること、および税務の執行をしっかりすることだと言っています。

なお、相続税は、1953年に導入されたものの、1985年に廃止されています。世代間の所得格差の是正には資するものの、お金持ちが蓄財をするインセンティブをそぐとか、所得隠しのスキームが跋扈するとか(社説ではアメリカ実情はひどいと批判しています)、マイナス面があるから、いまいちだよね、ということのようです。 

ここまで読んで大体察していただけると思いますが、当然インドでは税収が足りません。
関連する日本語の記事がありましたので、ご参考まで。「税収はGDP比18%で、BRICs諸国4カ国(ブラジル・ロシア・インド・中国)で最も低い水準だ。」とのことです。
税収不足に苦しむインドが税制改正にまい進
 
ただ、昔はすごかったようで、「1971年には97.5%だった個人所得税の最高税率が現在は30%に引き下げられている。」って。。97.5%って誰が働く気になるのでしょうか。

Sebi to ask Diageo to rework on clauses in United Breweries Group agreement, says it violates local rules

合弁契約書によく含まれる条項として、Put Option/Call option条項というのがあります。
合弁事業というのは、2つの異なる会社がそれぞれの特長を生かして一緒に事業を行うため、ひとつの会社を設立してそれぞれの会社が株主になるわけですが、途中で双方の思惑が会わなくなったり、合弁事業がうまくいかなかったりして、合弁をやめようという事態になることも少なくはありません。で、そのときになって、どちらが何%をいくらで買い取る、、という話になると、大体の場合双方の視点がずれていて合意に至るのが難しいため、そもそも合弁契約を締結した際に、そういった際には、どちらかが相手の株式を買い取ろう、という合意がされますが、これがPut Option/Call optionです。前者は自分の持っている分を一定の条件で「買い取れ!」と言える権利、後者は逆で相手の持分を一定の条件で「よこせ!」と言える権利ですね。

日本やアメリカなどの合弁契約では、一般的な条項だと思われますが、ここインドでは、この有効性が争われています。

United Spriritsというブランデーやウイスキーを製造する合弁会社の株主(UB Group)が、昨年持分の一部を合弁相手(Diageo)に売却した際、Diageoの持分が過半数を超えてから7年以内に、自己の持分の全部又は一部を合弁会社に対して買取を請求できるPut Optionを設定しました。

これについて、SEBIは、このPut Optionはインド法が禁止するForward contract(先物の契約、とでも訳せましょうか)に当たるから、違法だと主張しているそうです。今回のPut Optionは、これに当たるのに、市場外で価格を決めて売買することになるから、違法だ、ということのようです。

この点につき、ボンベイ高裁は、Optionではオプション保有者はオプションを行使するどうかは権利であり、相手方から行使を義務付けられることはないため、この点で、条文上予定されるForward Contractとは異なると言う判断を示しています。
もっとも、さらにこのオプションが、別の条文で規定されるContract in Derivertiveに当たり、やはり違法という議論がるようで、SEBIはこちらに依拠しているのではないか、と思われます。(ちょっと記事からもよくわからないので、引き続き勉強したいと思います)

(1月14日追記)
気になったので、少し判例も調べてみました。
ボンベイ高裁では、オプションを含む契約を結んだときは、まだオプション自体は行使されるかどうか決まっておらず、オプションが行使されて始めて株式売買の契約が成立すると捕らえ、オプションを含む契約を結んだと時点では法律の禁止するFoward Contract(SEBIからのNotificationでさらに定義されています)に当たらないと解釈します。ただ、これが最高裁に上がった際、結局、両当事者が別途話し合いで紛争を解決することとしこの論点を正面から最高裁は判断していません。また、上記オプション解釈についてのボンベイ高裁判決は、最高裁の判断を拘束しないことも、両当事者で確認しています。
ただ、事案としては、SEBIのルールに沿って事業をスタートしようとした証券取引所が、取引所規制のひとつである特定株主の持分の5%制限に沿おうとして、Promoterが銀行などに株式を分散して売却した際、その合意にExit optionが含まれていたところ、それをSEBIがForward Contractだといって、取引所にライセンスを与えなかった、という事案なので、通常のM&Aとは少し異なる文脈であったかもしれません。



SC dismisses Sahara plea on OFCD refunds

この問題、このブログを始めたときから一定の頻度で記事になっていたのですが、タイミングを逸していましたので、この機会に。

Saharaというインドのコングロマリッドのグループ会社2社が、2008年4月から2011年4月まで、Opitionally Fully Convertible Debentures (OFCDs:転換社債のようなものかと)を使って資金調達をした際、会社法やSEBI法が定める公募規制に違反したとして、2402億ルピーと15%の年利をつけて個人投資家に返金しなさい、という最高裁判決が昨年8月に出ています。ものすごい金額でし、年利がすごいですね。

上記の判決自体に対して、Saharaが昨年10月、最高裁に再審査を請求していたのですが、これが棄却されたと言うのが今回の記事です。 

さらにいうと、この返金期限はもともと11月だったのですが、Sahara側が別途ごねて時間的猶予を要求。最高裁はこれに対し、最初に512億ルピーを供託して、あとは今年1月と2月に残額を分割で払いなさい、と昨年12月に命じています。ただ、Saharaは、今度は新聞広告を使って、OFCDsの一部は償還されているから、残債は262億ルピーだ、と反論しているようです。。

最後におまけですが、Saharaはこの新聞の編集者などに名誉毀損の訴訟も提起しているそうです。もうこうなるとやりたい放題ですね。。

(1月14日追記)
昨年8月の判決の概要をもう少し補足します。
本来、50名以上の投資家に対して証券の募集をする場合には、(会社法に従うだけでなく、)日本の規制と同じく、SEBIルールに沿った開示手続きが必要となるのですが、なんとSaharaの2社は、3000万人以上の投資家を相手するのに、100万以上のエージェントを用意して、各エージェントは50人未満という要件を満たして募集していたから、SEBIルールにはそう必要がない、と主張していたようです。
どんな方法をとろうと、3000万人からお金を集めておいて募集ではない、、という主張をするなんて、すごすぎますね。。しかも、最高裁の認定では、各エージェントが知り合いのような小規模の人たち「だけ」に声をかけていたと言う実体もなかったようですし。なお、ほかにも会社法と、SEBIルールの整合性などをとう主張が色々交わされたようですが、実態から言って、これはSaharaサイドの主張は苦しすぎます。。
どうやら、当初からSEBIの調査以来に対しても協力的でなかったようですし、時間稼ぎのあの手この手を使っているあたりからも、かなり「筋の悪い」事案と言えます。その意味で、この判決の先例的価値がどこまであるのか、という点は慎重に理解すべきかと思います。

Sebi to pass final order on RIL insider trading

日本でいう証券取引等監視委員会と金融庁のようなな役割を果たしているSEBI(Securities and Exchange Board of India)。リライアンスの2007年のインサイダー取引疑惑について、同社との司法取引には至らなかったので、新市場へのアクセス禁止や上場廃止などのさらに強い措置を検討する、とのことです。

前提として、このような司法取引自体は、2007年に米国の制度を真似して導入されたもの。調査対象となった企業・個人が、捜査に協力して一定のお金を払うことで、当局はそれ以上の訴追をしない(調査対象も有罪かどうかを認める必要はない)という制度で、有限な司法資源を効率的に使うためのものです。日本にはこのような制度はないですね。

で、報道によれば、2007年、リライアンスがグループ会社リライアンス石油との合併に先立ち、同社の株式を売買したことがインサイダー取引に当たるとされています(51億ルピーの不正な利益を上げたとされています)。この件について、2008年にはSEBIの調査が始まり、2010年からは準司法的な手続きが進んでいて、3度の司法取引が試みられたが、現時点では合意に達していない、という状況です。事実関係の詳細は不明ですが、SEBIの態度から見て、それなりに確度の高い有罪の証拠があるのでは、、と推測されます。

この司法取引が失敗した後の流れとしては、直ちにいわゆる刑事裁判になると言うわけでも必ずしもないようです。(ちなみに刑事裁判の場合、2.5億ルピーか、インサイダー取引を通じて得た利益の3倍の、高い方の罰金刑です) その中間的な性質の手続きとして、SEBI ACT 11Bという規定があり、これはSEBIが投資家や資本市場の利益のために、適切な命令を出せるというものです。この条文だけ読んでもよくわかりませんが、記事によると、資本市場を通じた資金調達の禁止や、上場廃止、さらに(議論はあるものの)不正な利益の吐き出し、などを命じることができるとのこと。

今後の動向を見守る必要がありますが、SEBIとしては、調査開始から4年以上経過していますし、過去最大規模の案件のようなので、妥協した形の結論は難しいのでしょうね。

(備忘)
司法取引(Consent Order)のガイドラインです。

New Companies Bill to bestow more discretionary powers on government

今日は弁護士の仕事に関するマニアックな話です。

法律というのは、それだけを一生懸命読んでも「実際に適用されるルール」がわかるようにできていることはまれです。というのは、日本で言えば、法律の条文で定められた要件について、「政令で定めるものを含む」 とか「内閣府令で定めるものを除く」とか、別の規定(国会で承認されたものではなく、行政庁が定めた規定)によって、さらに細かく規定されているので、実際のところは関連する政省令を全部「発見し」(これがまず結構大変な作業です)、その上で、関連する政省令の条文とあわせて法律を読む作業が必要になります。
そして、このような政省令への委任が多くなればなるほど、「実際に適用されるルール」に対して、法律を作った立法府のコントロールが弱くなり、法律を適用する行政庁のコントロールが 大きくなります。

現在、インドの上院にかかっている会社法の抜本的な改正案(先日の下院での決議についてはこちら。銀行法、会社法改正案、下院にて可決)では、このような政省令への委任を定める規定が全体の74%あるとか。(現在の会社法では16%。ただ細かい話ですが、何が分母で何が分子の割合なのかというのがわからないとなんともいえない気もしますが。)たとえば、会社は、5年ごとに会計士を変更してキャッシュフロー計算書を開示しなければならない、というルールが法律にある場合、どの会社がこの義務を負うのかが(公開会社だけか、非公開会社も含むのか、など)、政省令に落ちているそうです。

このような政省令への委任は、法律で定めてしまうと正式な国会手続きを経ないと変更できない事項について、社会の変化に沿って迅速に変更できるというメリットもあるのですが、上記の通り、これ自体、国民により信任された国会議員ではなく、公務員が作ったルールなのに、実質的に法律と同じくらい重要な意味を持ってしまうことになっていいの??という疑問があります。法律実務に関わる者としても、法律の改正だけを追っかけていても実際に適用されるルールがわからず、政省令が出た時点で改めて勉強しなおし、、となってしまうことになります。


Mumbai-based Lodha Group to sell Lower Parel project through IPO model

ムンバイに拠点を置くディベロッパーがマンションを売り出す際、特定の眺望を保証するプレミアムをなしにする代わり、価格を低く抑え、部屋は一定の条件に従ったアルゴリズムで割り当てよう(記事では、これをIPOのような割り当てと表現しています)、ということを計画している、との記事です。この方法自体、政府系の物件では使われていたものの、民間の業者が扱うのは初めてとのこと。昨年のインド経済の減速(とは言ってもGDP成長率は6%台だとは思いますが)のため、不動産市場も落ち込んでおり、これに対する対応策の一つのようです。

2ベッドの部屋が3500万ルピーから、3ベッドは4500万ルピー、4ベッドになると6750万ルピーと、安くしているとは言ってもムンバイでは「億ション」に届いてしまう勢いですね。。ムンバイはもともといくつかの島の間を埋め立てて今の反騰のような形になっており、基本的に土地がありません。ただ最近は、かつての紡績関係の工場跡地がごっそり再開発でマンションやオフィスパークになることが多いようですが、このような高額の物件を購入する層がどんどん現れていると言うことですね。

DLF case: CCI seeks changes in builder-buyer agreement

インドの独禁法、M&Aの文脈でも一定規模を超えるものはその審査をスケジュールに織り込んでいくことが重要となりますが、今回は、不公正な取引が問題となり、私人間の契約内容が修正されようとしている、という話題です。日本法でも同様の議論があるかと思いますが、インドの独禁法は、インドの公取が、契約内容を修正する命令を発する権限を持つことが明文化されています。

デリー近郊のグルガオンでのアパートの開発に関し、ディベロッパーであるDLF Ltdと各買主が結んだ契約について、前者が支配的な地位を利用して一方的で不公正な契約条項を合意している、と判断されました(別途6.3億ルピーの罰金も課されています)。

命令文は、104ページにも及ぶようですが、記事によるとたとえば以下の条項が是正命令の対象となっています。ちょっとこれだけ読んだだけでは正確な内容がわからないのですかね。。
  • 当初の合意された建設契約を超えてディベロッパー側が追加工事をするのを認める条項は、これを認めない
  • 買主に販売されなかったOpen spaceのディベロッパー側の単独所有権を認める条項を、所有者間の行動所有権の対象とすべきとする
  • 契約違反があった場合の補償条項を削除する
  • 買主による支払いは、建設の完成の程度に応じて段階に行われるようにする
  • ディベロッパーが組織した組合への買主の加入を定める条項を削除する
独禁法自体、できて10年の比較的新しい法律であり、インド人的には独禁法の趣旨(公正な市場を確保し、独占的または強調的で不公正な行動を規制する)なんて、きっとほとんど理解していないんだろうな、、と思います。

あけましておめでとうございます。2013年もよろしくお願い申し上げます。

Tackling current account deficit: FM P Chidambaram likely to place more curbs on gold imports
Jewellers expect gold demand to rise 15% in January-March as farmers hope for a better rabi harvest
 
インド人が金を好きなのは比較的有名な話だと思いますが、 どうやらこれが国家の財政に悪影響を与える規模だと言うことで財務相が注意喚起しています。

インドではそれほど裕福でない家でも結婚などのお祝いの際には金のジュエリーを贈る習慣があります。記事によると、昨年のDiwaliはモンスーンの影響で農作物の出来がいまいちだったものの、今年の冬は生育がよいようで、農家も売り上げを見込んで高価な金を買っているようです。インドの農家は大多数が零細農家だと思いますが、それが金需要の10-15%を占めており、結構な割合です。
ただ、この需要を国内だけではまかないきれず、かなりを海外からの輸入に頼っています。その額、3兆ルピー(5億円弱)とか。昨年も輸入を抑えるために関税を2倍にしたものの、あまり効果はなかったようで、この傾向が続くようなら、更なる措置もとらないとね、、と財務相が言ったということになります。(具体的な措置にまでは言及していないようです) 

経常収支の赤字が続いており、外貨準備高が減少しているとのことですが(ルピー安にもつながります)、金の輸入が抑制できればこの傾向を止められるとか。ただ、他方で、外国によるインド投資をもっと呼び込むことによっても、この傾向をとめることができるので、その意味でも、外資を使ったインドの経済成長は必要、となります。 

外人の私としては、ちょっと贅沢して金のジュエリーを買うくらいいいじゃない、、と思いますが、やはりインドの人口規模を考えると、単純な話ではないのですね。。

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