blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

India, Australia to begin talks on civil nuclear deal in March

今日の記事には、まず前提がいりますので、産経新聞の記事を。要は中国への対抗策として、標記の4カ国で連携していこうと安倍首相が考えているということになります。
「安保ダイヤモンド」形成着々 中国包囲網へ豪重視鮮明 

一方、日米はともかく、オーストラリアとインドはそんなこと考えてませんよね、、というのが今回の記事です。両者はオーストラリアのウランをインドに輸出するための合意を検討している、という内容です。
ご案内の通り、インドの電力不足は早急に改善されるべき問題であり、その対策として原子力開発は非常に重要です。ただ、インドは核保有国で、過去に2度核実験も行っていますが、核保有の各国が加盟している核拡散防止条約に加盟していません。
しかし、オーストラリアはこの点を乗り越え、インドへのウラン輸出の方策を進めようとしています。2011年末にオーストラリア政府がインドへのウラン輸出を禁止するルールを変更し(こちらにも書かれています)、さらに昨年10月にはこのような民間の核エネルギー開発に向けた声明を共同で表明しています。で、今年の3月には具体的な交渉を進めたい、ということが書かれています。安倍首相の考えについても、少なくともオーストラリア側は、かなり否定的な感触です。

高度に政治的な話ではあるのですが、核開発の問題が日印の国際関係に影響を与えてしまうところは否定できないでしょうから、今後も注視したいと思います。

Google India's business dictated by company's Ireland unit: I-T department

GoogleやAmazonなど世界的な企業の節税スキームのすごさは近時注目を集めていますが、ここインドでも同様の問題があるようです。

2008年から翌年にかけてGoogleのインド法人がアイルランド法人にした支払いは、実はインドにおける課税所得であり、これが源泉徴収されていなかったのは違法だとして税務当局が主張し、インド法人に7.6億ルピーの制裁金を課しています。これに対し、アイルランド法人は、通常の裁判手続きではなく、AAR(Authority for Advance Rulings)を利用して、早期の紛争解決を図りたいとしています。

ARRは、退任した最高裁判事がトップとなり、非居住者が租税債務に関して紛争を抱えた際に利用できる制度です。裁判よりも早期に解決ができ、その決定は、申し立てた当事者と租税当局を拘束するところに特徴があります。

Lenders have asked Kingfisher Airlines to bring on table Rs 800-1000 cr

昨年後半より、紙面に載ることの多いこの記事、取り上げ損ねていたので、この機会に。

ビールの製造販売をしていたKingfisherが2005年に航空会社事業を始めたのですが、近年経営不振が続き、昨年、従業員への賃金不払いを始め債務の弁済が滞るようになりました。結局、労働者とのストなどから営業ができなくなり、当局からも営業停止処分を受け、現在、債権者との交渉が続いています。

記事では、債務総額は750億ルピーあり、とりあえず履行遅滞の債務の一部を弁済するため、80-100億ルピーの支払い準備と、 株主による資本注入を、債権者側が求めているとのこと。会社側が提示している再建策には債権者側は納得しておらず、この交渉はまだ続きそうです。

ちなみに、その脇には、チケットの高等により、 国内線の利用者が2012年は2011年に比べて微減したとのこと。いついってもインドの空港は混雑していて活気に満ちている(かつ、うんざりする)のですが、利用者は実は減っていたんですね。あと、市場シェアとしては、インディゴ航空が27%で一位、僅差でジェットエアウェイズが25.6%で二位だそうです。

We will build a robust control environment for our India business| Erick Haskell
Adidas gets a new MD, Reebok India a New Life

ちょうど、前回少し触れたアディダスの件で続報がありました(SEBI、一定規模の海外子会社の強制的会計監査を検討中)。中国法人のCOOだった人が今度のインドのMDになるようで、そのインタビュー記事が掲載されています。

以前のインドの経営者のMDとCOOが、隠し倉庫を作ってそれを商品を横領していたと言うのがReebokに関する不正内容だったようです。これにより、300の店舗を閉鎖したとか。事件内容は現在も調査中で、定時株主総会の開催も遅れています。ただ、新しいMDは、事件はビジネス上の問題だったが、Reebokブランドに対する影響はない、と言い切っています。

詳細はわかりませんが、どうやら現地は自分の法人ではなくフランチャイズで経営していたようで、「フランチャイジーの出資額の18%」という固定額がフランチャイジー側の報酬だったようです。でこれを、「売り上げの35%」という形にするとか。どういう経緯で以前の契約がされたか不明ですが、これだとMDらからいくばくかのお金をもらえば、不正行為に加担しやすい構造だったと言えそうな気がします。 

そして、単一ブランドのFDI規制が緩和されたことも受け、今後は間もなくFDIにより直接法人を持つことを計画しているとのことです。クリケットの大きな大会にあわせ、新しいマーケティングも計画していると言うことで、トップを入れ替えてネガティブな印象を一掃する方針と言えそうです。


Sebi wants compulsory audit of key overseas subsidiaries of listed companies

もうすぐ今日付の新聞が届いてしまいそうですが、、昨日の新聞記事です。
買収時のDDでも子会社(特に海外)をどこまで見るかは、費用/時間的制約の観点から問題になります。お金と時間が無限にあれば、海外子会社が何をしているのかもきっちりチェックしてから買収の最終交渉をすべきですが、実際にはそうはいかず、契約上の表明保証などで手当てしつつ価格の交渉でも適宜加味する、という形で処理することも少なくないと思います。

インド法人の海外子会社について、 SEBIが連結の売上の20%を超える場合は強制的な監査を義務づけることを検討している、というニュースです。実際、アディダスがインドのリーボックのインド関係法人の不正な会計により、販売目標を引き下げ、別途制裁金を科された実例などが背景にあるようです。

実際のところ、大規模なインド法人は、任意的にきっちりした海外子会社の監査を行っているのであまりこの改正によってもインパクトはないだろうが、問題になるのは中規模以下の会社だろう、と書かれています。日系企業としても、最初から大きくインド進出するのは難しいから中規模程度の会社を買収することから始めようか、、などと考えていると、このような海外子会社の問題に直面することになるかもしれません。


Competition Commission to look into Diageo, USL merger

過去記事
合弁契約中のPut optionの有効性、SEBIが争う

先日、上記のM&AがSEBIから注目されていると書きましたが、どうやら独占禁止法を扱うCCI(Competition Commission of India)も同じくこの件を注視しているようです。そもそもM&Aに他国のような独禁法の観点からの審査が始まったのが2011年6月。そこから100件ほどの買収に関する審査が行われており、平均して3週間程度で承認が下りているそうです。法令上は、当事者による申請から210日を経過すると自動的に承認が下りたものと見なされるようになっていますが、それよりはかなり前倒しで案件が処理できているようです。

実態として、買収者のDiageoのシェアは3%ほど。USL自体のシェアが大きいので、足すと60%に近づくようですが、専門家はおそらくCCIの審査は通過するだろうと見込んでいますが、そのプロセスでクロージングが遅れていることは確かなようですので、ビジネス上の影響は否定できません。ある程度の件数の積み重ねによりCCIの実務は予見可能にはなっていますが、大型M&Aの際には日本企業も注意が必要です。

なお、本件が注目を集めているのは、売主のUB groupのPomoterのMallyaが現在経営悪化で航空免許を停止されているKingfisherを保有しており、こちらに売却代金を当てるのではないかと見込まれているからのようです。Kingfisherの件はまた後日取り上げたいと思います。



2013 projetcs new highs for markets as GAAR gets deferred to 2016

過去記事
GAARはいつ施行?予期せぬEUからの早期施行の圧力
租税回避行為否認規定(GAAR)の取扱いが間もなく明らかに

GAAR(一般的租税回避否認規定)の導入が昨年3月の予算案からずっと議論されてきましたが、結局、既に公表されていた1年延期して2014年4月から、というのをさらに2年延期して、2016年4月から適用開始、ということで落ち着きました。外国投資家もこれを好感したようで、ボンベイ取引所の指数は2年ぶりの高値に届いたようです。

従前より、税務当局側の裁量が強く認められ得るところが大きな懸念事項となっていましたが、これからほぼ3年間は、このルールの適用に備えてスキームを構築する準備期間ができたと言えます。昨年前半の経済のスローダウンを受け、政府が矢継ぎ早に対応した昨年後半からの各種投資刺激策の一部と位置づけられるのだと思います。当初の混乱を招いた点はさておき、外国投資家にとっては穏当な結論に落ち着き、よかったと思います。

Right to wealth: What needs to change to financially empower women in India

インドは世界最大の民主主義国などと言われますが、女性の権利はまだまだ虐げられています。先月から日本語ニュースでも取り上げられているデリーのGangrape事件(デリー強姦事件、怒り高まる市民がデモ:求められる対策)などもこのような背景と無関係ではないのでしょう。

もともとは、宗主国イギリスのCoverture(女性の身分は結婚前は父親に、結婚後は夫に保護される)の影響で、インド法も女性の権利が弱かったようです。で宗主国の方は時代の流れに合わせて女性の財産権が認められた一方、インドはその時代の変化に乗り遅れてしまったようです。記事で挙げられているのは以下の5点。

1.婚姻後の夫婦共有財産性が認められていない。 →長年連れ添った夫婦であっても離婚すると、女性の家に対する財産権が認められていないため、裁判を経ても非常に少額の扶養料だけで家を追い出されてしまうそうです。
2.離婚時の財産分割が不十分 →(最近はやや傾向が変わっているようですが、)財産分割を進めると社会が混乱するとか、夫の暴力に耐えかねて妻が家を出た場合妻が家族を遺棄したと判示され、扶養料が認められなかったそうです。日本やアメリカでは、原則半分にします。
3.家族における女子の相続権が事実上尊重されない →法律で禁止されているはずのDowry(結婚持参金)の観衆が残っています。法律上は女子も平等に相続分があるはずですが、Dowry分が事実上の相続分と社会的に見なされてしまっていて、かつ、離婚時にDowryを取り戻すには刑法違反を厳格に争う必要があり、ハードルが非常に高いです。
4.女性名義財産が一般的でない →財産分与を計算するにしても書類が全部男性名義で妻がこれにアクセスできないことが問題です。これについては女性名義にすることの経済的インセンティブを与える(女性名義なら銀行口座の利息を多くする、印紙税を免除するなど)の解決策が書かれています。あと、統計上、女性が土地や建物の名義を持っている場合、明らかにDVの被害になる確率が下がるとされています。
5.女性の働く環境が整っていない →一定の職場の女性は午後7時以降朝6時まで働くことが禁止されています。また、通勤途中に会社の運転手に被用者の女性がレイプ・殺害されたケースで、会社の責任が一切認められなかったそうです。なお、現在、審議中の会社法では、取締役が5名いる場合、1人を女性とすることを義務づける方向ですが、このような問題意識と関連するものと言えます。





Poke Me: Why the rich should not be taxed more

今日は社説からです。

アメリカはFiscal Cliffの回避策として年間400,000ドル以上の所得のある人に増税したり、フランスでは75%の所得税をかけようとしたり、 我が国も富裕層の増税が検討されていたり。で、ご多分に漏れず、インドでも同様の議論があるようです。

現在のインドの所得税の最高税率は30%ですが、その他付加税があって、確かプラス数パーセントされています。 ただ、実際にインドで所得税を払っているのは、国民の3%以下。。人口が12億いて、年間100万ルピー以上の所得を申告する人は、140万人しかいないそうです。びっくりですね。
社説は、所得税の最高税率引き下げに否定的な態度。この前、フランスの俳優さんも効率の所得税が嫌だからってロシアに国籍を移してましたしね。。それじゃいけませんと。むしろ、現在導入が議論されている物品サービス税(GST)を導入すること、および税務の執行をしっかりすることだと言っています。

なお、相続税は、1953年に導入されたものの、1985年に廃止されています。世代間の所得格差の是正には資するものの、お金持ちが蓄財をするインセンティブをそぐとか、所得隠しのスキームが跋扈するとか(社説ではアメリカ実情はひどいと批判しています)、マイナス面があるから、いまいちだよね、ということのようです。 

ここまで読んで大体察していただけると思いますが、当然インドでは税収が足りません。
関連する日本語の記事がありましたので、ご参考まで。「税収はGDP比18%で、BRICs諸国4カ国(ブラジル・ロシア・インド・中国)で最も低い水準だ。」とのことです。
税収不足に苦しむインドが税制改正にまい進
 
ただ、昔はすごかったようで、「1971年には97.5%だった個人所得税の最高税率が現在は30%に引き下げられている。」って。。97.5%って誰が働く気になるのでしょうか。

Sebi to ask Diageo to rework on clauses in United Breweries Group agreement, says it violates local rules

合弁契約書によく含まれる条項として、Put Option/Call option条項というのがあります。
合弁事業というのは、2つの異なる会社がそれぞれの特長を生かして一緒に事業を行うため、ひとつの会社を設立してそれぞれの会社が株主になるわけですが、途中で双方の思惑が会わなくなったり、合弁事業がうまくいかなかったりして、合弁をやめようという事態になることも少なくはありません。で、そのときになって、どちらが何%をいくらで買い取る、、という話になると、大体の場合双方の視点がずれていて合意に至るのが難しいため、そもそも合弁契約を締結した際に、そういった際には、どちらかが相手の株式を買い取ろう、という合意がされますが、これがPut Option/Call optionです。前者は自分の持っている分を一定の条件で「買い取れ!」と言える権利、後者は逆で相手の持分を一定の条件で「よこせ!」と言える権利ですね。

日本やアメリカなどの合弁契約では、一般的な条項だと思われますが、ここインドでは、この有効性が争われています。

United Spriritsというブランデーやウイスキーを製造する合弁会社の株主(UB Group)が、昨年持分の一部を合弁相手(Diageo)に売却した際、Diageoの持分が過半数を超えてから7年以内に、自己の持分の全部又は一部を合弁会社に対して買取を請求できるPut Optionを設定しました。

これについて、SEBIは、このPut Optionはインド法が禁止するForward contract(先物の契約、とでも訳せましょうか)に当たるから、違法だと主張しているそうです。今回のPut Optionは、これに当たるのに、市場外で価格を決めて売買することになるから、違法だ、ということのようです。

この点につき、ボンベイ高裁は、Optionではオプション保有者はオプションを行使するどうかは権利であり、相手方から行使を義務付けられることはないため、この点で、条文上予定されるForward Contractとは異なると言う判断を示しています。
もっとも、さらにこのオプションが、別の条文で規定されるContract in Derivertiveに当たり、やはり違法という議論がるようで、SEBIはこちらに依拠しているのではないか、と思われます。(ちょっと記事からもよくわからないので、引き続き勉強したいと思います)

(1月14日追記)
気になったので、少し判例も調べてみました。
ボンベイ高裁では、オプションを含む契約を結んだときは、まだオプション自体は行使されるかどうか決まっておらず、オプションが行使されて始めて株式売買の契約が成立すると捕らえ、オプションを含む契約を結んだと時点では法律の禁止するFoward Contract(SEBIからのNotificationでさらに定義されています)に当たらないと解釈します。ただ、これが最高裁に上がった際、結局、両当事者が別途話し合いで紛争を解決することとしこの論点を正面から最高裁は判断していません。また、上記オプション解釈についてのボンベイ高裁判決は、最高裁の判断を拘束しないことも、両当事者で確認しています。
ただ、事案としては、SEBIのルールに沿って事業をスタートしようとした証券取引所が、取引所規制のひとつである特定株主の持分の5%制限に沿おうとして、Promoterが銀行などに株式を分散して売却した際、その合意にExit optionが含まれていたところ、それをSEBIがForward Contractだといって、取引所にライセンスを与えなかった、という事案なので、通常のM&Aとは少し異なる文脈であったかもしれません。



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