blogでインドビジネスニュース速報-弁護士が見たインドの今

日本人弁護士が気になった、新聞報道に基づくインドの最新の動きをお届けします。

India suspends jewellery imports from Thailand

インド人の金(きん)好きは有名で、それが貿易赤字の原因にもなるほどですが、近時一気に輸入が気急増していたタイからの金のジュエリーの輸入が一時停止されました。

金をインドに輸入するには、 この輸入を抑える目的で、10%の輸入税がかかるのですが、タイとの二国間条約(Early Harvest Schemeとよばれます)により、タイからの輸入の場合はこれが1%となります。これに目をつけた他国の業者が、タイ経由でインドへの輸出を一気に増加させてたようで、2011年度には1300万USDだったものが、2012年4月から11月で9200万USDに一気に急増しています。


Max India's plan to sell speciality films business to German firm in trouble

今日は記事をきっかけに思い出したことがあったので、それを書きます。

記事自体は、Max Indiaというインド企業がその映画事業をドイツ企業に売却するに際し、価格も含め法的拘束力のない合意を結んだが、近時同部門の業績が悪化したので、買収者側が価格の大幅な減額の申し入れをしている。ただ、Max India側はそれを受け入れるのは難しいだろう、という記事です。

これ自体は読み飛ばしてしまいそうな話なのですが、以前、インド企業とのM&A交渉で気をつけなければいけないのは、インド側は買収交渉を有利に進めるため、意図的に交渉状況をマスコミにリークし、商業主義的な新聞社側もそれに乗ってしまう傾向がある、という話を聞いたことを思い出しました。確かに、いわれてみると、いわゆるM&A交渉中の情報、と思われる記事が、日本に比べて結構多く新聞に載っているように思われます。大体、その場合、記事の中でも情報ソースは名前を明らかにしません。 

こんなことを意図的にやっているとすれば、相場操縦とか風説の流布とか、日本法では問題になりそうですし、 SEBIの年次報告書でも、インサイダー取引とかよりは、Market Manipulation and Price Riggingというものの方が調査開始件数が多かったと記憶しています。このあたりは、インド人創業家(orその関係者)の遵法意識が低いのか、SEBIの検挙が甘いのか、その両方なのか、よくわかりませんが、いずれにせよ、日本企業がインド企業を買収する際にも、注意が必要な部分だと思います。

デリーにある、インドの最高裁に見学に行ってきたので、備忘もかねて紹介します。

・ゲートを通過した後、進んで左手の場所でEntry passの発行を受ける必要あり。同行してくれた現地法律事務所の名前が書かれた申請書と、パスポートのコピーを提出する。職業を聞かれるので、弁護士と答える。なお、法廷番号が記入されるので、複数の法廷の案件を見たい場合、あらかじめ法廷番号を伝える必要がある。(なお、高裁以下のほかの法廷では、傍聴者の管理はもう少しゆるいらしい)

・基本的に法廷が開くのは月曜と金曜。朝10時半から。

・法廷は15個あり(今日開廷していたのは12)、Visitorの入口でpassを見せて傍聴席へ。それほど大きい部屋ではなく、しかも傍聴席の前に1メートルくらいの高さの判例集の本棚がぎっしり並べられている。したがって、座っていては法廷の様子が見えず、結局、各自が立って傍聴する。携帯は持ち込み不可で、おそらくかばんは持参しないほうが便宜。

・基本的な法廷の構造は日本の裁判所と同じ。判事が二人で、おそらくよりシニアと思われるほうが審理を進める。両サイドに記録の山が置いてあり、さくさくと案件を処理していく。ちなみに、私が見ていた30分の間に30件以上の案件が進んでいった。判事の前にそれぞれの書記官が立っている。その前に両当事者の代理人(Advocate)がいずれも判事のほうを向いて弁論をする(日本は代理人通しが相対すると思われるので、ここは少し日本と違う)。Adovocateは黒のガウンを着て、首に取り外しできるカラーをつけている。男性は白シャツに黒スーツがマストのようだが、女性はゆるいルールの様子。

・今回は、インド憲法136条の特別上告許可という手続で、Special leave petitionというものを提出した。高裁判決に納得がいかなかったので、上告の特別許可を最高裁にもらう、という手続。どうやらこの条文により、最高裁に書面を提出すること自体は容易にできるようで、そのために最高裁が混んでいたのではないかと推測している。

・インド的なのは、異様に混んでいるいること。もう少し 厳粛な雰囲気で進んでいくかと思ったら、次から次へと案件が進んでいくので、相当な密着度で多数のAdvocateたちが法廷の通路に立っている(待合いすはあるが案の定満席。。)。案件番号が右側に電子表示され、左側では他の法廷の案件進行状況もチェックできる。一人のAdvocateが同日に複数の法廷で案件対応をするための便宜と思われる。法廷の外もものすごい数のAdvocateたちが自分の番を待っていて、騒然としている。

・もう一点、印象的なのは、同行してくれた法律事務所にも当然パートナー弁護士がいるのだが、それとは別にSenior Advocateという相当シニアの弁護士に依頼して、彼に弁論をしてもらうという慣習。確かに見ていると、若手のAdvocateの弁論は一瞬で判事に切り捨てられてしまうが(終わった件の記録を書記官のほうに捨てるように投げるのが印象的。。)、Senior Advocateの場合、数分は弁論の時間を割いてもらっていた(素人的に聞いていても、それほどすごい内容を弁論しているわけではない場合も含む)。こんな属人的な取り扱いでいいのかしら、、と疑問に思うが、少なくとも今のインドの実務はこうなっている。Senior Advocateは忙しいようで、同行してくれた法律事務所も複数の件で別々のSenior Advocateを使っていた。なお、限られた時間の弁論なので、自分の主張の肝となる部分の書面のページ数を直ちに裁判官に言えることは必須の様子。

・白熱して弁論を展開しているものの、内容的にはいまいちなものも当然多く、判事が何度も主張を打ち切って次の事件に行こうとしているのに、あきらめないAdvocateも結構いた。彼らは、最後には冷たくSorryと判事に言われ、しぶしぶ去っていった。

・最高裁の判事は、一定の実務経験のあるAdvocateか、高裁の判事から任命される。高裁の判事も同じく、経験のあるAdvocateか地方裁判所の判事から。で、地方裁判所の判事はというと、法学部を卒業した学生が試験を受けて、その後1-2年の研修を経て、なることができる様子。

Sebi free to seize Sahara group firms’ properties: SC

過去記事 Saharaの転換社債、最高裁は再審査請求を棄却

以前書いたように、Saharaグループの2社が3000万人以上から集めた資金2400億ルピーについて、昨年8月に最高裁は、SEBIのルールに違反したとして、これを返金するように命じています。

これについて、Saharaサイドはいろいろな主張を重ねいまだにその一部しか支払いをしていないのですが、これについて、最高裁は、早くSEBIはSaharaの口座を凍結するなり、資産をさし押させるなりしなさい、という異例のコメントを発しました。どうやら、昨年の判決がそのとおりに執行されないことに、かなり不満を抱えているようです。

Sebi clears Diageo-United Spirits deal with riders

過去記事 Diageoによる買収、SEBIだけでなく公取も注目

以前書いた件ですが、どうやらSEBIは条件付でOKを出しました。以下が簡単な事案の概要です。

買主:Diageo(ロンドンを本拠とする世界最大の酒類メーカー)
売主:USLの現在の大株主で、Kingfisher航空を持つVijay Mallya氏(とその持株会社UBHL)
対象会社:United Spirites Limited(USL。インドの上場企業) 
取引:DiageoがMallya氏の持株取得とUSLからの新株発行をあわせて27.4%を取得、それとは別途公開買い付けを行い一般株主から26%を取得しUSLの過半数取得を目指す。

もともと今年の1月7日に公開買付けが開始される予定でしたが、SEBI(金融庁)とCCI(公正取引委員会)からストップがかかっていました。SEBIとの関係では、当初の売買契約に含まれていた条項(公開買付けで過半数が取れなかったら、4年間、USLの議決権行使をDiageoに委託する)の削除が承認の条件とされたようです。
一方、CCIはまだ承認に必要な情報が提供されていないため、それを待っている、という状況のようです。

Mallya氏のUBグループは、参加のKingfisher航空の不振などが響いて、昨年3月現在で2300億ルピーの負債に苦しんでいます。今回の代金も一部は負債の返済に回し、一部はKingfisher航空の事業再開のための資金に回すようです。 

ちなみに、公開買付けの買付価格は現時点では1株あたり1400ルピーほどですが、市場では、本件の情報が漏れていたためか、昨年11月ころから株価が急騰し現在は1900ルピーほど。Diageoが価格を引き上げると見込んでいるようです。SEBIは公開買付価の引き上げを要求できる権利を持っているのですが、今回の売買契約にはその場合はDiageoが公開買付けを撤回できると定めているため、関心を集めていました。ただ、SEBIはこの条項については契約に残すことをどうやら認めたようです。

Shell India to challenge tax evasion order

世界二位の石油企業であるロイヤル・ダッチ・シェル(日本では昭和シェル石油が参加の法人)が、Vodafoneに引き続いて、インド税務当局から追徴課税要求を受けているという報道です。
過去記事 Vodafone事件に関する微妙な問題、解決への道のり遠く

Vodafoneの件では、外国の中間持株会社の株式の譲渡によるインド法人の支配権の取得についてインドでの課税が争われている(昨年最高裁ではVodafoneが勝訴したものの、その後当局がルールを遡及的に変更し現在も紛争継続中)のですが、今回は、Shellのインド法人が発行した株式をShellの海外法人が引き受けた際、この評価額が過小であり、課税を逃れたというもののようです。 Shellの評価では1株10ルピー(合計8.7億ルピー)、税務当局はこれを183ルピー(合計1522億ルピー)と主張しています。Shell側は、税務当局の解釈が不当であり、Shellはすべての法規制にしたがっているという主張をし、徹底的に争う姿勢のようです。一方、税務当局がどのような根拠でこの主張をしているのかは明らかではありません。

ただ、記事によれば、Shell以外にも、Nokia、ヒューレットパッカード、IBMなどの企業も同じくインド税務当局から追徴課税命令を受け取っているようです。この国の税務当局の動きには、本当に気をつけなければなりません。

Delhi Development Authority to renew lease for Taj Palace hotel, Tatas get a breather

インドで有名なホテルのTajホテル。Tataグループの創設者がムンバイの外資ホテルに泊まろうとした際、西洋人のものであるからと宿泊を断られたため、これに怒ってインド人のための豪華なホテルを作ろう、と一念発起して作られたホテルで、Indian Hotels Companyという会社が運営しています。その中でも、ムンバイのTaj Mahal Palaceは有名ですし(2008年11月のテロの標的にもなった場所です)、デリーにもTaj Mansinghなどの同じくホテルがありますが、この土地利用契約の延長についてトラブルが起きているという記事です。

まず、ムンバイのTaj Mahal Palaceは土地所有者のMumbai Poret Trustとの間で土地利用契約を結んでいましたが、実はこれは2002年に99年リースの契約が終了しており、Trust側からは昨年3月に土地明渡通知が発せられていて、現在高等裁判所で係争中とのこと。

次に、Taj Mansinghについては、33年リースの契約が2011年に終了したのを「双方の合意による」と定める契約条項に基づいて今年10月まで延長したのですが、その後は、土地所有者のNew Delhi Municipal Councilが土地のオークションを検討しているとのことで、こちらも微妙な状況です。

一方、デリーのChanakyapuriのホテルについては、今年3月末に終了する30年のリース契約の延長をTajホテル側が所有者のDelhi Development Authorityにすでに申し入れています。この契約上は、ホテル側に同条件での25年延長オプションが認められているため、契約条項違反がない限り、契約は延長されるのではないかとのことです。実際には、契約が定めるホテル収益の分配条項について両者間ですでに争いがあり、これについては仲裁手続が進行中のようですが、これ自体と契約の更新とは関係がないものと扱うようです。

特に最初の2つはホテルの収益上もレピュテーション上も非常に重要な拠点であり、Tajホテルとしてはなんとしてでも利用権を確保したいところかと思います。

Cabinet approves Lokpal Bill amendments; Govt not serious on giving autonomy to CBI, BJP says

インド社会における問題の大半は、公務員の汚職が絡んでいるのではないかと思いますが、その汚職を撲滅しようという法案が上院の審議にかかるそうです。

この法案、2011年にすでに下院を通過していたのですが、政党間の意見の違いが大きく、上院にかかる前に特別な委員会の検討を経て、その推薦を受け政府が法案を修正するか、という段階に至っていました。修正を経たので、上院の採決がされても、再度下院にまわされることになります。

内容としては、賄賂を罰する実体法的な内容ではなく、違反者を訴追するための手続的な仕組み(Lokpalとは、独立したオンブズマンのイメージです)を確保するための法律です。インドにおいてありがちな話ですが、大体の分野において法律自体は存在するので、それに沿っていない現在の社会は違法状態なのですが、法律を実際に執行、訴追する機関が非常に貧弱で法律どおりの社会になっていない、というのがインドの実情です。

記事は、政府が懸案の論点について委員会の推薦を無視して採決に向かおうとしていると野党が批判していると報じています。 嫌疑が上がった役人に捜査開始前に意見聴聞の機会を保障するかという点と、捜査を実務的に行う担当官(CBI)の配置にLokpalの同意を必要とするか、という点です。委員会と野党は、前者はこれを認めると証拠隠滅が行われるから認めないべき、後者はこれを必要としないと担当者が次々移動となり捜査が妨害されるから必要とすべき、としましたが、政府案はいずれもこれを受け入れないようです。

Morgan Stanley to exit India banking on stricter rules

インドで銀行免許を持っていたモルガンスタンレーが、銀行免許を更新せず、投資銀行事業のみに集中するとのことです。ただし、NBFCとしては登録し、一定の金融事業はできるように保ちます。

銀行免許を維持するためには一定規模の資本やその他のリソースを維持しなければならないのですが、それが負担になったのだろう、とのこと。国内支店を持つにはさらなる資本支出が必要な上に、インドの銀行は、言っていき規模の農業事業への貸し出しも義務づけられており、これも負担と言えますね。

昨年3月に取得した銀行免許は、1年間これを利用しないと失効します。この期間を延長することは可能なのですが、モルガンスタンレーは延長はしないと決めました。
 
他の米系銀行はインド市場に参入していません。インドの町中を歩いていると感じますが、やたらめったら銀行の種類があり、国内での競争は厳しいのだろうと感じられます。一方で、新しい種類の銀行免許を認めようという動きもあるのですが(過去記事:銀行法、会社法改正案、下院にて可決)、各種負担とリターンの見込みを比べると、容易なマーケットとは言えないようです。

The young voter

簡単な記事です。

今月22日現在のインドの有権者は、7.78億人(日本は昨年9月2日現在1億430万人)。この数はこの4年だけで6000万人増えており、そのうち1760万人が18歳と19歳とのこと。

来年総選挙を控えるインドとしては、この若い世代の声に如何に応えるかが争点になります。

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